「くらしヒアリング発表会」とは?
オレンジページは、さまざまな調査を通して「生活者の声」に耳を傾けることで、本当に求められているニーズや世の中の小さな兆しを見つけ、誌面づくりを始めとする、さまざまな事業に生かしてきました。
「声」をあげて下さる核となるのが、オレンジページを支えるモニター組織「オレンジページメンバーズ」。そしてメンバーズのリアルな声から導き出された調査結果を、生活者に向けたビジネスに関わる方々にお届けするのが「くらしヒアリング発表会」です。
7月28日(金)に実施したのは、「おうち和食のリアル」。和食離れが進み、「家庭から和食が消えつつある」という声も聞かれるなか、実際はどうなのか、本当に和食は作られず、食べられなくなっているのか? 生活者から送られたリアルな食卓写真をもとに、長年編集に携わってきた料理編集歴30年の今回の調査担当者の目線から探ってみました。
前編では、今も「和食」は家庭で作られ、食べ続けられてはいるものの、その形は少しずつ変化しているというところをお伝えしました。
変化のポイントは、
●「和食」のとらえ方の広がり
● 主菜・副菜という概念の変化
● 汁もの・主食の変化
● 盛りつけの変化
の4つ。
後編となる今回は、食卓写真投稿のテーマ2「あなたが作った〈晩ごはん〉の写真を見せてください」に寄せられた写真を見ながら、「和食」の変化をさらに深堀りしつつ、その変化の背景についても考えていきたいと思います。
いろいろなジャンルの要素が混在する献立
写真投稿のテーマの2つめは、「和食」に限定せず、ふだんの晩ごはんの写真を送ってもらうこと。そのうえで、作ったおかずが
・和食系
・洋食系
・中華系
・韓国系
・エスニック系
・どれともいえないアレンジ系
のどれにあたると思うかを教えていただきました。
その結果、このテーマ2でも、新たな「おうち和食」の変化が見えてきました。
それでは、実際の写真を見ていきましょう。
まずは、こちらの2枚から。
左は「和食系」として投稿いただいた写真。「ツナとさつまいもの炊き込みご飯」と、確かに和食と言われて違和感のないメニューです。右の写真は、メインのおかずが「鶏肉のトマト煮」で洋食系です。
注目したいのは、合わせている他のおかず。左の写真では、炊き込みご飯の奥にクリームシチューが見えており、右の「鶏肉のトマト煮」には、さばのみそ煮や筑前煮といった、いわゆる和食系のメニューが合わせられています。
このように、今回投稿された写真の中では、主菜、副菜ともに「和食系」あるいは「洋食系」で統一された献立は少数派で、ほとんどが異なるジャンルのメニューが混在しているものでした。
こちらの2枚は、いずれも「和食系」として投稿されたもの。
左の写真のメニュー名は「カツオのたたきのイタリアンソースがけ」。「イタリアン」と明言し、コメントにも「カルパッチョ風」とあったものの、ジャンルとしては「和食系」とされていた一枚です。
右の写真は、肉じゃがに焼き魚、ご飯とみそ汁、きゅうりのあえものという献立で、「和食系」で統一された献立ですが、コメントには「肉じゃがにはキムチを入れました」との言葉が。
この2枚からも、前編でみた変化のひとつ「和食のとらえ方の広がり」が見てとれます。
家庭の「和食」の現状と変化の背景
前編・後編を通して見てきたリアルな食卓写真から、家庭における「和食」のさまざまな変化が見てとれました。大きくまとめると、次の3点になるのではないかと思います。
Ⅰ. 「和食」のとらえ方が広がっている
Ⅱ. 「和食」で統一された献立はレアケース
Ⅲ. 「ご飯・汁もの・おかず」のスタイルは失われつつある
昔の和食と比べるとメニューの幅が広がり、献立の構成や盛りつけ方、器の選び方も変わっています。
こうした変化は、いろいろな国や地域の料理が家庭にも入ってきて食の選択肢が増えたこと、家族の好みや調理の手間を考えてのメニューのチョイス、高齢者や健康上の理由からの器選び、家事時間が減って汁ものまで手が回らない……など、現代の生活スタイルに合わせての変化と言えるのではないでしょうか。
こうした変化を検証すべく、写真投稿募集後に改めて、「和食のスタイル」についての意識調査を行いました。
この調査では、「和食に汁ものは欠かせない」と答えた人は約7割。逆に言えば3割の人は「汁ものはなくてもいい」と考えているという結果に。
また、「箸を使わずに食べる料理は和食ではない」に対しては、「そう思わない」が約7割。つまり7割の人がスプーンやフォークで食べる料理も「和食」と考えているということになります。
その他、献立を同じジャンルで統一していない人は半数以上、複数のおかずを一皿に盛ることに抵抗がない人は8割以上に上りました。
「外国のメニューを日本の食材でアレンジしたものも和食」についても、半数近くの人が「そう思う」と回答しています。
この結果からも、やはり家庭での「和食のスタイル」は変化してきていることがわかりました。
『オレンジページ』の「和食特集」から見る、変化の背景
では、「和食のスタイル」の変化の背景には、どんなことがあるのでしょうか。
1985年の創刊以来、何度となく「和食」の特集を組んできた『オレンジページ』。「和食」特集の内容の変遷から、そのヒントを探ってみたいと思います。
じつは『オレンジページ』では、2000年代に入ったあたりに、年間で取り上げる「和食」のテーマの本数が急増したんです。
1980年代後半から、「エスニック料理」や「イタめし(イタリアン)」、「韓国料理」「カフェブーム」など、さまざまなジャンルの料理がブームになり、定着し、家庭でも作られるようになりました。
家庭での食の選択肢が増えたぶん、「和食」を作る機会が減ったこともあり、もっと和食を作ってもらいたいという思いもあり、特集の本数を増やしていたのではと思います。
また、ちょうどその頃、共働き世帯が増えたことによる家事時間が減少したこともあり、『オレンジページ』で取り上げる「和食」特集の内容に変化が見られます。
2000年の特集が「基本の和食」だったのに対し、2002年では「簡単和風おかず」、2005年は「ラク早! カジュアル和食」と変わっていきます。
『オレンジページ』の「和食」テーマは、家庭で作ってもらいやすいよう、「手軽さ」や「アレンジ」を訴求したテーマに変わってきたのです。
こうした『オレンジページ』の「和食」テーマの変遷の裏には、
●家庭の食の選択肢の広がり
●家事時間の減少
●カフェブームによる「盛りつけ」意識の変化
といった、「現代の生活スタイルに合わせた変化」が見てとれます。
これは、家庭の「和食のスタイルの変化」ともリンクすると言えるのではないでしょうか。
スタイルが変わっても残していきたい「和食」のよさ
ここまで、家庭での「和食」は、「消えつつあるのではなく、変化している」というところを見てきました。
また、その変化の背景にあるのが、食の選択肢の広がりや家事時間の減少など、「現代のライフスタイルの変化」であることも見えました。
ただ、このまま変化を続けていくと、いずれは本当に消えてしまうかもしれません。
では、「和食」を消さないためには、「和食」の何を残していかなければいけないのでしょうか。
さまざまなニーズから変化してきた「和食のスタイル」を、もとに戻すことはむずかしいですし、戻すことが必ずしもよいとも言えないと思いますが、一点だけ懸念すべきことがあるとすれば、本来「和食」が持っていた、「栄養バランスのよさ」という特長が失われつつあるという点ではないでしょうか。
もともと「和食」の栄養バランスのよさは、ご飯、汁もの、おかずの組み合わせがあってのものでした。
エネルギー源になる主食のご飯、たんぱく質がとれる主菜、野菜をとるための副菜、そこでとりきれない栄養素を補う汁もの……といったぐあいです。
たとえば「ご飯」がない献立の場合、エネルギー補給のために主菜の存在感が大きくなり、そのぶん脂質も上がってしまいます。実際、現代の日本人の栄養バランスでは、脂質の割合が高くなっているというデータもあります。
こうした点からみると、スタイルの変化を受け入れつつも、これだけは残していきたいのは「ご飯と汁もの」と「旬」の部分ではないでしょうか。
「旬」は季節感を感じるという情緒的な意味に加え、その時期に体に必要な栄養素が豊富で栄養価も高いので、この2つが「栄養バランスの源」であると言えると思います。
「和食」をつないでいくために……
今回の調査を通して、家庭での「和食」を次の世代にもつないでいくために、今やるべきこと、できることは何なのかを考えてみた結果、次の3つに行きつきました。
1.「和食のスタイル」が持つ「意味」の発信
「ご飯とみそ汁」や「旬」の食材がこれまでずっと食べ続けられてきたのは、それが栄養バランスをとるために必要だったから。
ただのスタイルとしてだけではなく、なぜ必要なのかという「意味」を伝えていくことが大切なのではないかと思います。
の生活スタイルに合わせ、パックご飯やフリーズドライの汁ものでもOK。主菜は作り、副菜は買ってきたものを添えるでもOK。それを食べる「意味」を発信していきましょう。
2. ハードルを下げる商品やレシピの提供
家庭で作り続けてもらうための、「手軽でおいしい」と感じられる商品やレシピの発信も必要ではないでしょうか。
今や、だしは顆粒だしやだしパックが主流。めんつゆや白だしも当たり前の時代。
前編でみたように、胸を張って「和食が得意」と言える人も少なくなっている今、まずは作ってもらいやすい商品やレシピが、ますます必要になってくるのではないでしょうか。
3. 「旬」を楽しむ商品や情報の提供
栄養バランスの源の一つである「旬」の素材を使いたくなる、楽しみたくなるような商品や情報の提供も大切。商品とからめた「旬」を楽しむ食べ方の提案や、旬の素材の味わいを楽しめる季節限定調味料などもありかもしれません。
最後に、家庭で「和食」作り続けてもらうために、「手軽さ・アレンジ」は必要なことだけど、もともとの「和食」のよさも合わせて伝えていきたいと考えています。
アレンジされたものしか知らないと、アレンジされたまま受け継がれてしまい、それこそ「和食が消える」日がきてしまうかもしれません。「もともと和食にはこういう良さがある」ということは、ぜひ、つないでいきたいですね。
オレンジページでは、さまざまなリサーチやデプスインタビューによる生活者のリアルなインサイト発掘、「兆し」の発見で、みなさまのマーケティング活動のお手伝いができればと考えております。ご興味がありましたら、下記までお問合せください。
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