2020年3月に第1弾を発売して以来、これまでに3冊つくられたムック本『こどもオレンジページ』は、社内公募のメンバーによる「こどもプロジェクト」から生まれました。
親子が一緒に“楽しく食べる”ためのレシピやアイデアを誌面で紹介するだけでなく、企業とのコラボレーション商品を開発したり、アプリをつくったりとさまざまに展開。プロジェクトを立ち上げた経緯や、大事にしている視点について、編集長の清野ゆかり、副編集長の和田有可と長谷川美保、販売・宣伝担当の亀崎麻美に聞きました。
最初に社内のママたちに声をかけてつくったチーム
―「こどもプロジェクト」はどのようにして生まれたのでしょうか?
清野ゆかり(以下「清野」):始まりは2019年、私が広告関連の部署にいたときのことです。屋台骨の『オレンジページ』以外にも、会社として次になにを仕掛けるかを考えなければいけない時期にありました。
ちょうどそのころ、私が一緒にお仕事をしたいと思ってあるメーカーのホームページを眺めていたら、「学校給食の提案」と書いてあって。そこからヒントを得て、こども関連のビジネスの可能性を探りたいと考えるようになったんです。
それでまず、子育てをしながら働いている社員に相談してみました。そうしたら、ママ目線のいろんなおもしろい話が聞けて。そのあともいろんなママに声をかけ、「すごくやりたい」「楽しそう」と仲間が集まりました。今日の4人もそのとき集まったメンバーです。
その後、社内で新規プロジェクトの企画を募集する機会を経て、2019年の冬に「こどもプロジェクト」を立ち上げました。あくまでもムック本『こどもオレンジページ』をプラットフォームとした“プロジェクト”なので、部署としての編集部があるわけではないんです。
—ちなみにオレンジページには、産休だけではなく子育て中の時短勤務もあるんですか?
亀崎麻美(以下「亀崎」):はい、産後こどもが2歳になるまで育休が取れて、3歳になるまでは時短勤務ができます。
清野:オレンジページにはママ編集者もいるのですが、バリバリ活躍しているのが見えにくい部分もありました。でもやっぱり、ママだからこその経験から言えることや、見えているものがあるんですよね。彼女たちから話を聞き、会社で仕事をしている一方で実はいろんなことを経験しているんだなと。そこにはすごくおもしろい世界があって、子育てマーケットがあるということをあらためて感じました。
“楽しい”と“食べる”と“生きるチカラ”の3点セット
—『オレンジページ』は今年で36周年を迎え、読者も一緒に歳を重ねています。そんななかでムック本として『こどもオレンジページ』を発行したのは、少し若い層にアプローチしたい気持ちもあったのでしょうか?
清野:そうですね、おおいにあります。今日の4人はみんな40代なんですが、小さいころから家に『オレンジページ』があった世代なんですよね。男性でも“母親が読んでいた雑誌”としてなんとなく知っていたと思います。
創刊当時のメイン読者は20代が中心で、その方たちは今50代になっています。時代を経て競合メディアがたくさん出てきたこともあり、あるときから若い人がなかなか手に取らなくなってきたんです。だから今、『オレンジページ』を知らないこどもが多い。そういう単純な気づきがあり、今回のプロジェクトを通してこどものうちから『オレンジページ』を知ってもらおうという考えがありました。
本のタイトルに「オレンジページ」をつけるかどうかは紆余曲折あったのですが、私たちが愛着を持っていて、世の中の知名度もあるブランドを活かしたいと経営陣と議論して『こどもオレンジページ』とすることができました。オレンジページの血を引き継いだ本としてスタートを切れることになり、ホッとしましたね。
—料理の経験があまりない人へのハードルを下げるような、『オレンジページ』のDNAも活かされているんでしょうか。
清野:そうですね。ただ、私としては、いわゆるレシピ本ではないという気持ちでやっていて、そこが『オレンジページ』と大きく違うんです。最初はこどもがつくれるレシピを多く載せようとしていたんですが、上司や先輩にアドバイスを受けるなかで「レシピ本ではないと言っているわりにはレシピがメインになっている」と言われ、コンセプトをきちんと考え直しました。その結果、“楽しく食べれば生きるチカラが身につく!”というコンセプトにたどり着きました。
正しいレシピをただ紹介するんじゃなくて、“楽しい”と“食べる”と“生きるチカラ”、この3点がセットになっていることが大切なんです。もちろん簡単につくれて、おいしいレシピは絶対なんですが、レシピ通りにつくらなくてもよくて。それよりも、お届けするレシピを通して、親とこどもが楽しい経験をするということに重きを置いています。なので、『オレンジページ』から引き継いでいるのは、信頼や親しみやすさの部分かもしれません。
—食と生きるチカラを結びつけているのが、コンセプトとしておもしろいです。
清野:「食育」という言葉が叫ばれて久しいですが、堅苦しいことはぬきに、食べる経験ってあらゆる教育につながっているんですよね。学歴とかではなく、今はまさに体験を通して身につけられる“生きるチカラ”が求められる時代だと思います。
—そういう食の体験を親子で楽しめるというのがまたいいですね。
清野:そうなんです。ママたちも、「教育しなきゃ」「食べさせなきゃ」というふうになってしまうとつらくなってしまうので。コロナ禍の初めのころに読者から「毎日鬱々とした気分でこどもとの接し方にも悩む毎日でしたが、この本を読んで光がパーッと差し込む感じがしました」とおたよりをもらって、本当にうれしかったし安心しました。まずお母さんがハッピーな気持ちになることで、こどももハッピーになる。『こどもオレンジページ』を通して“お母さんも一緒に楽しんじゃおうよ”と伝えていきたいです。
気づくとこどもたちが『こどもオレンジページ』を開いている
—読者からの反響でほかに印象的なものはありますか?
和田:「料理をこどもと一緒につくって本当に楽しかった」、そのうえで読み物のページや食にまつわる文化を学べるページなどの「レシピ以外にも楽しめる情報がたくさん載っているのがうれしい」と反応してくださった方がけっこう多かったですね。
それから「料理して食べるところだけじゃなく、生産から消費に至る食の流れを紹介していて、それがすごく心に響いた」というおたよりもあって、すごくうれしかったです。
—親が上から教えるのではなく、同じ目線で同じ体験ができるようになっているところがいいですよね。
和田:私たちが意識しているのが、眺めるだけで楽しい、こどもの興味を引けるような楽しげな誌面にすることなんです。実際に、こどもが自分でペラペラめくって「これつくろう」と言ってくるんです、というおたよりもありました。親が差し出すのではなく、一緒に見て楽しんでいる様子がすごく伝わってきて、私たちの思いがちゃんと届いていると感じました。
長谷川美保(以下「長谷川」):イラストや楽しそうな写真がたくさん載っているので、絵本感覚になるんでしょうか。うちのこどもたちも、自宅に置いておくと気づけば開いていますね。
—「キッチン実験室」も新しい切り口で興味深いです。
清野:すごく好評をいただいていて、2021年6月には『食べ物の「なぜ」を探ろう! キッチン実験室』というキッチン実験室だけのムック本を発行しました。
長谷川:やっぱりうれしいですよね、自分でバターをつくれたりするのは。うどんをつくる実験も、「おうどんって小麦粉とお水でつくれるんだ」というのがまず発見になりますし、できあがったときには感動し、自信にもつながると思います。うちの子はこねるのが大好きなので、生地もののレシピは特に楽しんでやっています。
それまではつくってもらうものだと思っていたものが自分でもつくれることを知って、特にコロナ禍になってからはお手伝いの機会も増え、よくキッチンに来るようになりました。そういうことが自然に身についたのがよかったですね。この本を通していろんなことを体験させてあげられるので、私もどんどん活用していきたいなと思っています。