2024年3月5日に書籍『小学生おまもり手帖』が発売されました。小学1年生〜6年生の成長の過程でぶつかる体や心などのお悩みに専門家が答えるといった現代の子育て指南書であり、“ネクスト母子手帳”のような存在の本になっています。編集を務めた『こどもオレンジページ』編集長の和田有可と、エディトリアルデザインを手がけたキタダデザインの北田進吾さんに、『小学生おまもり手帖』をつくることになったきっかけやデザインのこだわりについて聞きました。


母子手帳のように、親の心のよりどころになる本を目指して

―『小学生おまもり手帖』とはどういった書籍なのか教えてください。

和田有可(以下「和田」):小学生の年代別の悩みにさまざまなジャンルの専門家が答える指南書になっています。子どもが乳幼児のころは、ほとんどの親御さんが母子手帳を活用していると思うのですが、成長するにつれて使わなくなっていきますよね。そこで、母子手帳のようにいつもそばに置いて、成長の過程でちょっとした壁にぶつかったときに心のよりどころになるような、子どもの成長を見守ってくれるような存在になれたらと考えてつくりました。

『小学生おまもり手帖』

和田:構成は「からだのこと」「性のこと」「こころのこと」「あんぜん・ネットのこと」と4つの章に分けています。多くの人が知りたいと思われることを網羅しつつ、現代の親御さんならではの、ネットのことや性教育についても入れているところが特徴です。特にお悩みの多い「こころのこと」と「性のこと」の章は、ボリュームも多くしています。

未就学児の親御さんには「これからこういうふうに成長して、こんなことが起きるんだ」と知っていただき、いままさに小学生のお子さんをお持ちの親御さんには「私もいま、同じ悩みがある」と共感してもらえたらいいなと思っています。

和田有可

―いつ、どういったきっかけでこの書籍を企画されたのでしょうか。

和田:『こどもオレンジページ』という親子向けムック本のなかで「親子で話そう体のこと」というテーマの記事をつくったことがきっかけで、2年くらい前から構想はあったのですが、本格的に始動したのは昨年ですね。

『こどもオレンジページ』は、「楽しく食べれば生きるチカラが身につく!」というコンセプトのもと、レシピなどを中心に掲載しています。あるとき、食べることと体は関係が深いと考え、「なぜ背は伸びるの?」「どうして自分は生まれてきたの?」といった、子どもが抱きそうな体に関する疑問について掲載したところ、「もっと読みたい」という読者の声がたくさん寄せられました。

それと、別の号でコロナ禍の子どもに注目してウイルスの話も掲載したんです。取材をしていくと、新型コロナウイルスという病気自体に対してだけでなく、マスクをしなきゃいけない、友達と遊べないといった、子どもの心のストレスに対するケアがすごく大事だということがわかりました。これも読者から反響があり、それなら、子どもの心と体をテーマにして、『こどもオレンジページ』とは少し違った観点で1冊の本にまとめたら役に立つのではないかと思ったんです。

現在、No.1からNo.5までが発行されている『こどもオレンジページ』。

―『小学生おまもり手帖』というタイトルになったいきさつを教えてください。

和田:タイトルは40〜50案くらい出しましたね。ターゲットとなる小学生の子どもを持つ親御さんたちにもたくさん話を聞きましたし、編集部や北田さん、この本の編集・ライティングをお願いした清繭子さんなども含めて議論を重ねました。

もともと企画の立ち上げ段階から出ていたのが、「ネクスト母子手帳」というキーワードです。母子手帳って、記録を書き込んだりして自分の子どもだけのものになっていくところがいいですよね。『小学生おまもり手帖』にも、学年ごとに「マイブーム」「楽しかったこと」などを書き込めるスペースを用意しました。

ずっと取っておくものだし、子どもが成長したら見せてあげたり、プレゼントするのもいいと思っていて。ただ、妊娠中や乳幼児期は細かく記入していても、子どもが小学校に上がった親御さんからは「忙しいから書くのが大変」「逆に書かなきゃいけないというプレッシャーになる」という声もあったので、記入する部分は当初の予定より少なくすることにしました。そういった意見もふまえて、子どものためだけでなく、親が安心できる“おまもりのような本”にしたいねという話にもなり、「おまもり」というワードを入れることに決めたんです。

子育てに対する、ポジティブな目線を表現できるデザインに

―『小学生おまもり手帖』に掲載されているお悩みは、たくさんの小学生の保護者にヒアリングしたものが反映されているそうですね。

和田:かなり反映されています。オレンジページが持つ会員数約7万人のモニター組織のオレンジページメンバーズにアンケートをとったり、読者層の方々を実際に集めてグループヒアリングもしました。『こどもオレンジページ』のウェブサイトでもアンケートを実施しましたね。

実際にヒアリングしてみると、体や心に関するお悩みだけでなく、お友達や家族とのコミュニケーション、性教育など、本当にさまざまな声が寄せられたんです。もともと「あんぜん・ネットのこと」は章立てせず、それぞれコラムとして掲載する案もあったのですが、子どもが犯罪に巻き込まれることやネット依存などに不安を抱えている親御さんが想像以上に多いことがわかり、章立てすることにしました。

特に、ネットや性教育のことは、親御さんは自分たちが小さかったころに経験していないことばかりだったり、そのころとは状況も変わっているので、どうしたらいいのかわからないことが多いんですよね。正解もないし経験もない。そういうところで、自分も含め迷っている方が多いのかなと思いました。

たくさん寄せられたお悩みを精査したうえで、さまざまな専門家の方に取材したのですが、私たちが聞きたいこと以上のことを答えてくださったんです。取材を経て内容をブラッシュアップするということも何度もありました。

―デザインについてもおうかがいしたいのですが、北田さん、デザインするにあたって大切にしたことを教えてください。

北田進吾さん(以下「北田さん」):最初の打ち合わせの段階から編集部のすごく高い熱量を感じて、こんな本をつくりたいんだという思いが伝わってきました。

本の構成は悩みをベースにしているものの、「お悩み手帖」ではなく「おまもり手帖」なので、子どもに対する態度をデザイン面からもポジティブなものにできないかと考えました。内容的には辛辣な内容やセンシティブな部分もあるけれど、目線をポジティブに、前向きにしたいと思いながらデザインしました。それも「おまもり」というキーワードがあったからこそ得られた、この本の大切な姿勢だと考えています。

実は、僕の子どもも小学生なんです。子どもが成長するにつれて、日々変化しているのを目の当たりにしていますが、その変化に自分が全然追いつけていないと感じることも多いです。だからこそ、なにか悩みを持ってページを開くときにどう見えるといいのかなと、自分ごととして考えるようにしました。

北田進吾さん

和田:各お悩みが載っている見開きの最後に「おまもりことば」があるのですが、ここのちゃんと“おまもり感”があるデザインがすごくいいなって。大事なことをひと言でわかりやすく伝えられるうえに、真面目すぎず、軽すぎず、理想的なデザインにしていただいて感謝しています。

北田さん:この本は1年生から6年生までの長期間、親と共にいることが特長なので、カバーを外した表紙の表面には小学校低学年の、裏面には6年生のイラストを用いることで、この本の入口と出口を表現してみました。

北田さん:あと、ほかの書籍とは1ページごとの滞在時間が違うと思うんですよね。何ページも続けて読む本ではなくて、1見開きをじっくり読んだり、また戻ったりするような本だと思いますし、成長に合わせて読み返したりすることもあると思います。デザインするうえでは、そのあたりも意識していました。ひとつの悩みの入りから最後の“おまもりことば”までが、しっかりワンパッケージで見えるように工夫しています。

―和田さんと北田さんでやりとりするなかで、印象に残っていることはありますか。

和田:やっぱり北田さんが最初に「おまもり」という言葉に反応してくださったところです。本全体を通して、細かいところにも「おまもり」のデザインを散りばめてくださり、それらがとても効いています。また、最終段階で北田さんが帯の背に「なにかキャッチフレーズを入れましょう」と言ってくださって、“子どもを守るために知りたいこと、ぜんぶ”という言葉を入れました。サブタイトルもいくつか考えていたんですけど、編集部内で「“子どもを守るために”というワードがグッとくる」という声が多く、私自身にも思い入れがありました。だからこそ、このフレーズを北田さんが背に入れてくれたことはすごくうれしかったです。

北田さん:今回の本はイラストを描いた中山信一さんの存在も大きかったですよね。中山さんが、この本のあるべき姿を体現してくれたと思っています。特に、カバーに描かれているふたりの子どもの目線がすべてを決着させたのではないでしょうか。セリフはなにも書かれていないのに、あらゆることを言っているような表情なんですよね。

―どのような指示を出して描いてもらったんですか?

北田さん:それが、本の内容をお伝えして、「小学生の男の子と女の子を描いてください」としかお伝えしてないんです。この本で伝えたいことや、僕らが「こうしたい」という想いを深く汲み取っていただいたのだと感じています。

和田:観音開きの口絵には、子どもの成長に応じたシーンのイラストをお願いしたのですが、ある程度自由に描いていただきました。そうしたら予想をはるかに超える、物語があふれるようなものを描いていただき、とにかく感動して……。中山さん、天才じゃないかと思いました(笑)。

―今後『小学生おまもり手帖』をどのように展開していきたいと考えていますか。

和田:一時的な流行ではなく、長く売っていきたいと考えています。書店はもちろんですが、保育園や幼稚園など、入学をひかえる親や親子が集まる場所、自治体への売り込みもしていきたい。実はいま、図書館からも注文がたくさんきているところです。
あとは、口コミでも広がっていったら理想的ですね。入学記念や入学祝いにもぴったりだと思います。

内容としてはわりと普遍的なのですが、特にネットやデジタルに関する情報はどんどん変わっていくと思うので、重版のタイミングなどでリニューアルしていきたいですね。どんどんアップデートしていって、長く愛される本になっていけばいいなと思っています。