「ウェルビーイング100 by オレンジページ」は、クリエイティブカンパニーである株式会社ディーランドとオレンジページの共同事業。2021年9月にスタートし、WEBメディアを通したコンテンツの発信を中心に、ワークショップやセミナー、書籍の発行など事業を拡大してきました。オレンジページが「ウェルビーイング」というテーマに着目した理由や事業内容、収益化などについて、ディーランド代表の酒井博基さんと、WEBメディアの編集長を務める前田洋子、副編集長の今田光子に聞きました。


人生を味わうレシピ=物語を届け、読者のウェルビーイングにつなげる

—「ウェルビーイング100 by オレンジページ」の立ち上げの経緯を教えてください。

前田洋子(以下「前田」):オレンジページは約40年にわたって暮らしの実用情報を発信し、読者の生活満足度を上げることを試みてきました。「おいしい料理ができた」「ガス台がピカピカになった」など、一度成功体験を得ると、さらに生活をよくしようという意思が出てくる。つまり結果的に、よく生きること=ウェルビーイングを、オレンジページはずっと推し進めてきたと言えます。

近年、ウェルビーイングという言葉がSDGsの上位に位置づけられるとともに、経営や経済の文脈でも語られるようになりました。一方で、2017年11月に実施した「オレンジページくらし予報」のアンケート調査(※)では、人生100年時代と言われるなか「100歳まで生きたくない」という人が65.3%という結果に。そんな状況を受け、オレンジページが雑誌を通して取り組んできたウェルビーイングについて、あらためて考えることが必要だということになりました。その機会を創出し、ウェルビーイングの実践方法を探るために、2021年9月に立ち上げたのが「ウェルビーイング100 by オレンジページ」というWEBメディアです。

※調査期間:2017年11月24日~11月28日/調査方法:インターネット調査/調査エリア:全国/調査対象:オレンジページメンバーズ(国内在住の成人女性)/有効回答数:788人/調査機関:株式会社オレンジページ

酒井博基さん(以下「酒井さん」):「ウェルビーイング100 by オレンジページ」の起点は、2020年8月にオレンジページさんが策定したブランドパーパスにもあります。“オレンジページ=雑誌の『オレンジページ』をつくる会社”というイメージから脱却するために、雑誌はあくまでも事業のひとつであるとし、「『食』を起点に暮らしをつくり、生活者、コミュニティ、地球のよりウェルビーイングな未来をつくる」というパーパスを掲げました。前田さんが言うように、オレンジページはずっとウェルビーイングに取り組んできた。そのことをあらためて整理して、ブランドパーパスに落とし込んだわけです。

そのうえで、僕たちはオレンジページさんの企業活動をウェルビーイング視点で再定義しようとしました。雑誌『オレンジページ』で追求していた問いが「おいしい料理をつくるためのレシピ(方法・手段)を発信し、読者のウェルビーイングな暮らしの実現に貢献するには?」だったとすると、「人生の楽しみを味わうレシピ(物語)を発信し、お料理をすることの意味や楽しさを再定義するには?」という新しい問いが立つのではないかと。それを世の中に投げかけるのが「ウェルビーイング100 by オレンジページ」です。メディアであるというスタンスは変えずに、人生を味わうレシピ=物語をたくさん届けることによって、読者のウェルビーイングにつなげようとしました。

前田:立ち上げから2年が経ち、WEBメディアの運営以外にもさまざまに活動を広げてきました。「ウェルビーイング100 by オレンジページ」は最初こそWEBメディアそのものを指していましたが、いまはWEBメディアを含むひとつの大きな事業と捉えています。

酒井:現在の活動は大きく分けてふたつあります。ひとつはウェルビーイングを生活のなかに浸透させていくための、WEBメディアを通した啓蒙活動。もうひとつは、さまざまな企業さまと活動を共にすることによって、ウェルビーイングを生活実装していく共創活動です。

—「ウェルビーイング100 by オレンジページ」にはどのようなコンテンツがあるのでしょうか?

酒井:「食」「暮らし」「健康」「つながり」「視点」「カルチャー」と6つのカテゴリのコンテンツがありますが、オレンジページのメディアとしてはすごく画期的で、料理のレシピは一度も載せていないんです。おしなべて言うと、発信しているのはすべて「わたしは自分の幸せをこういうふうに自分のものさしで測って、選び、こういう物語を紡いでいる」というそれぞれのbeingに着目したマイストーリー。その語り手が個人や料理家、有識者、あるいは企業など、さまざまに変わるという形です。

前田:たとえば「ウェルビーイング100大学」という連続企画は、クリエイターや学者、専門家など、機嫌よく生きていそうな人たちに暮らしぶりやものの見方についてインタビューをするものです。2023年9月には、そのなかの21名のインタビューで語られた、100のエピソードをまとめた書籍『ウェルビーイング的思考100 〜生きづらさを、自分流でととのえる〜』を発行しました。

今田光子(以下「今田」):そのほかのコンテンツには、コロナ禍後の新しい生活習慣にフィットするサービスや商品開発に取り組んでいる企業の「今」を探り、深めるインタビュー「ウェルビーイングの鍵」や、ウェルビーイング研究を行っている石川善樹さんが、他ジャンルの専門家との対談を通してウェルビーイングを探る「ウェルビーイングを巡る旅」などがあります。

大きな出資をするのではなく、まずはお互いの強みとマンパワーを持ち寄った

―この事業はオレンジページとディーランドの共同事業です。酒井さん、はじめはどのようなお話だったのでしょうか?

酒井:「内容は未定だけれど、ウェルビーイングというテーマでメディアをつくりたいと思っている」というご相談をいただきました。潤沢な予算はないともおっしゃっていましたが、僕もちょうどウェルビーイングという言葉に興味を持ちはじめていたことと、別件で一緒に仕事をしたときにオレンジページさんの企業としてのポテンシャルをすごく感じていたので、「受発注の関係性ではなく、共同事業としてはじめてみませんか」とご提案しました。進めるなかで収益が上がったら、そのレベニューをシェアしていくのはどうですかと。なので、お互いに大きな投資をするのではなく、まずは自分たちの強みとマンパワーを持ち寄ろうというところから始まりました。

前田:『オレンジページ』は歴史の長い雑誌なので、企業さまとの付き合い方も固定化していました。それはタイアップが主ですが、そのころ従来の雑誌のビジネスモデルが先行き不安になり、マーケティング視点に立ったり、クライアント企業・団体、外部パートナーとの協働に力を入れる動きが社内ですごく増えていて。そんななかでディーランドさんと組むことによって、企業のインサイトに寄り添って動いていくような仕組みづくりが可能になったと思います。

酒井:弊社は「ビジネスのシクミとシカケをデザインするクリエイティブカンパニー」を謳っていて、企業さまが抱えるさまざまな課題解決をお手伝いするとともに、そのプロセスのなかでキャッシュポイントをつくるビジネスモデルやマネタイズを考えたりすることにも取り組んできました。オレンジページさんはキャッシュポイントをつくる豊富なポテンシャルがある一方で、文脈にのりきらずもったいないなと感じる部分があったので、協働すれば強みを住み分けながらうまくやっていけるのではないかと考えたんです。

今田:お互いの強みをかけ合わせることによって、いままでオレンジページではできなかったこともできるようになったと思っています。

左から酒井博基さん、前田洋子、今田光子。

―ディーランドさんからは、オレンジページになにを期待しましたか?

酒井:オレンジページさんは、長年培ってきた編集力や生活情報に対しての知見、そしてなにより、社会からの厚い信頼性をもっています。「ウェルビーイング100大学」もそうなんですが、「オレンジページさんならいいよ」というように出演オファーをほとんど断られないんです。いい情報を生活者に届けよう、いいものをつくろうという姿勢がすごく強くて、それをぶれずにやってきたし、読者の声に耳を傾けることもずっと続けてきた。さらに特筆すべきは、良質な読者と、たくさんの料理家とのつながりがあること。オレンジページメンバーズという約18万人もの読者を中心としたモニター組織があるところも含め、大きな可能性を感じていました。

企業向けトークイベントをきっかけに、新たな共創も

―収益化の仕組みはどのようにつくっているのでしょうか?

酒井:最初はプロジェクトを伴走していける企業となかなか接点を持てず苦しんだのですが、まずはメディアとしての世界観をつくるために足場固めに注力したところもありました。2年目に入っていろんな反応をもらえるようになり、世界観もできてきて、じゃあここからどう収益化していこうかとなったときに、あらためて、志を共にするような企業との接点をつくろうと。でもその“志”を言語化しないと、なかなか一緒にビジネスを歩んでくれる企業は見つかりません。それで、「TABLE for Well-being」という企業向けトークイベントを実施することにしたんです。

「TABLE for Well-being」の目的は、食をテーマにウェルビーイングとビジネスが交わる接点を対話を通じて探求すること。オレンジページメンバーズに食とウェルビーイングとの関係を探るアンケート調査を行い、その結果をもとに登壇者がアイデアを出していくというものです。これまでにオンラインで2回開催し、第1回は自炊料理家の山口祐加さんと一緒に話し合いました。第2回は、ビジネスとウェルビーイングに関する書籍も出している、株式会社インテグレート 代表取締役CEOの藤田康人さんにお越しいただいて、ビジネスにぐっとフォーカスしたような内容にしました。

今田:参加者は食品メーカーの方が多く、ほかにヘルスケア関連や大学、さらにコンサル会社や調査会社の方もいらっしゃいましたね。

酒井:特に食品メーカーさんは、モノが売れない時代であったり、自炊をする若い人が減っていたりするなかで、どうしたら売上を上げていけるかということにすごく悩まれています。「TABLE for Well-being」に参加して、自分たちの商品やサービスの意義をウェルビーイング視点で再構築することで、これまで料理や食にあまり関心がなかった方ともいい関係をつくっていけるんじゃないかと感じた、という声を多くいただきました。

前田:課題は感じているものの、それをどういうアプローチで解決するかというところまではなかなか答えが出ない。そんななかで、一緒に考えていこうという、まさにお互いの専門領域を越境していくようないろんな共創が今後も生まれていくと思います。

今田:オレンジページメンバーズへのアンケート調査の結果を「TABLE for Well-being」でご覧いただいたところ、みなさん「もっと詳しく知りたい」と。やっぱり生活者の生の声や実感は、企業の方にとってすごく興味深いものなんだなと感じました。

酒井:そうですね。そういったデータを自分たちで得るのはなかなか難しいことだと思いますし、オレンジページメンバーズのみなさんには定量データだけでなくすごく丁寧に定性データを提供してくださるので、良質なデータがとれることは強みのひとつだと思います。

僕らの活動に興味を持ってくださった方にお声がけをいただいて、現在複数の企業さまと協議を進めているところです。たとえば、食品メーカーさんのブランディングにおいて、ウェルビーイングをテーマになにかご提案いただけないかというご相談。オレンジページさんはキッチンスタジオ「コトラボ」を運営しているので、情報だけではなく体験とセットで発信できることが要になると思います。まだビジネスモデルにまではなっていませんが、そういった方法で収益化が見込めている状況です。

書籍を使った自治体とのワークショップ

―自治体と書籍『ウェルビーイング的思考100 〜生きづらさを、自分流でととのえる〜』を使ったワークショップも行っているということですが、どのようなものでしょうか?

酒井:日野市から「ウェルビーイング100 by オレンジページ」のサイトを見ましたとお声がけいただいて始まった意見交換のなかで、「日野市もウェルビーイングというキーワードでいろいろな取り組みを進めたいと考えているが、どういう糸口で進めていったらいいかわからない」と。僕らもちょうど書籍の発売が控えていたので、一緒に書籍を使ったワークショップをやってみたいと考えたんです。「じゃあそれを共同事業としてやってみませんか」と話がまとまり、そこから意見交換を重ねて内容を詰めていきました。

ワークショップの流れとしては、まず書籍の見出しのなかからお気に入りの言葉を3つ選んでもらい、さらにひとつに絞り込んでいただく。それを日常生活のなかに取り入れられるような“心構え”を言語化してもらい、みんなで101個目の言葉を考えましょうという形です。

日野市のワークショップには、幅広い年代、職業の市民が参加。ペアになってお互いにインタビューするシーンもあり、和やかな雰囲気のなかで進められた。

前田:いろんな名言が出てきておもしろかったですね。「ダメな自分と他人をおもしろがる」など、本当に101個目になりそうな言葉がいろいろ出てきました。
いま、街づくりにおいては市民の声を吸い上げる参加型コミュニティの活用が主流になってきています。わたしたちのワークショップでも、参加者同士が心理的な安全を担保しながら発言し、お互いのbeing=存在に対して関心を寄せ合う対話がすごく効果的だと再確認できました。街づくりを推進する自治体や、気持ちよく仕事ができる環境を整えたいと思っている企業の方と一緒に社内向けのワークショップをしたりと、すごく可能性があるなと確信したので、これからメニュー化してどんどん進めたいと考えています。

―今後の展望をお聞かせください。

前田:この活動は、時間を重ねることでいろんな効果が現れてくると思います。WEBメディアのコンテンツが書籍化したりというのもそのひとつですね。今後はもっと、企業や自治体の方に、わたしたちの「生活者に対してウェルビーイングを翻訳する」という立場をうまく使っていただきたいと考えています。若年層から子育て世代に向けてもいろんな発信ができると考えているので、領域と年齢層を広げていろいろなアプローチができる場として、企業さまとの関係性をうまく構築していきたいです。言うなれば、“ウェルビーイング実践企画事業”のような位置づけです。

酒井:企業として、ウェルビーイングをキーワードになにかを始めなきゃいけないんだけど迷ってるという方は多いと思います。僕たちは2年かけて知見を蓄えてきたので、意見交換できることはたくさんあるはず。まずは問い合わせをいただけるとうれしいです。ぜひ、対話からはじめましょう。

ウェルビーイング100 by オレンジページ
https://www.wellbeing100.jp/