オレンジページが運営している「コトラボ」は、食を中心とした体験型スタジオ。外部講師を招いた幅広いジャンルの講座が人気を博しています。いわゆる料理教室とは一線を画すユニークネスはどのように生み出されているのでしょうか。見えてきたのは、雑誌づくりの理念とも重なる“ホスピタリティ”。コトラボ推進部の小松正和、繁谷忍、岡田奈都が語ります。
料理教室だけではない、幅広い“コト”を体験できる場所
―コトラボのコンセプトについて教えてください。
小松正和(以下「小松」):4年前の立ち上げ時は、雑誌『オレンジページ』の誌面で紹介している料理をリアルな場でも体験してもらうというのがコンセプトでした。そこから徐々に、出版物をそのまま再現する講座だけではなく、反対にオレンジページ誌面ではなかなかできないような体験ができるものも用意するなど、講座内容を広げてきました。
繁谷忍(以下「繁谷」):いわゆる「料理教室」とは少し違う、リアルの場でコトを体験できる常設スペースとして、ほかでは体験できない講座を楽しめる「体験型スタジオ」という形をとっています。
メインのコトラボ阿佐ヶ谷では基本の料理から世界の料理をつくる講座、さらにスイーツやパン教室、お酒のイベントなど、幅広い講座を毎日開催。過去には刺し子などのクラフト系の講座もありましたね。また、もうひとつのコトラボ新橋でも不定期でさまざまなイベントを行っています。
―「料理教室」ではなく「体験型スタジオ」と称しているところにも現れていますが、一般的な料理教室と差別化するために、特にどのようなところに注力していますか?
繁谷:たとえば、テレビや雑誌でしか見られない有名な料理家さんや料理人を講師として迎え、直接料理を教えてもらえるようにしています。また、有名レストランのシェフが登壇し、直接お話を聞ける講座もあります。
小松:講師に教わりながら料理をつくる講座のほか、トークをメインに、講師がつくった料理をみんなで試食する講座もあります。その場合もレシピはいただけるので、「ぜひおうちでつくってみてください」という形。そんなふうに、聞く・見ることを軸にした講座もたくさんある点は、ほかの料理教室とは少し違うところかと思います。
―みなさんのふだんの業務を教えてください。
繁谷:わたしはコトラボ阿佐ヶ谷で開催している講座の開発を担当しています。料理家やシェフといった外部の講師をアサインし、講座の内容について打ち合わせをして、実際に当日実施するという流れですね。それとは別に、オリジナルレシピを考案し、「SHINOBU」の講師名で毎月講師として料理の講座に登壇させていただいています。あとは、企業とのタイアップ講座の開発担当。その3つがメインです。
小松:僕も講座の開発を担当しています。もともと出版の編集部に所属していたので、そのときの人脈を活かして新しい講師の方をアサインし、新規ファンの獲得を目指しています。さらに、新橋の本社や新大久保のフードラボ「K,D,C,,,」で、たとえば難民の方に料理を教わりながら交流する「難民ごはん」の講座など、出張コトラボとして阿佐ヶ谷ではできない内容のイベントを開発・開催したりもしています。
岡田奈都(以下「岡田」):私は今年の6月に広告営業から異動してきたばかりなんです。ミッションとしてはコトラボを大きくしてマネタイズすることなので、ほかのメンバーと比べてコトラボの事業をより俯瞰して捉えているかもしれません。
現在はほかの部署と連携してイベントを企画したりしています。直近では、11月3日に新宿の三角広場で開催するリアルとオンラインを組み合わせた大規模イベント「おいしいにっぽんフェス2021 地域のイッピン×WASHUめぐり」が控えているので、その準備を粛々と進めています。
大切にしているのはお節介なほど手厚いホスピタリティ
―企画や講師の人選では、どういった部分を大事にしていますか?
小松:講座はそれなりの受講料をいただくことになるので、内容がはっきりとわかりやすく、かつ登壇いただく講師の方は特徴のある方のほうが集客しやすい傾向があります。たとえば「料理家」ではなく「韓国料理研究家」など、ピンポイントのジャンルに絞っているような方ですね。必ずしも珍しい料理である必要はありませんが、材料や作り方にこだわりがあって、自分のスタイルをしっかりお持ちの方が人気です。
―参加者にはどのような層の方が多いですか?
繁谷:当初は雑誌の読者層と同じ40代以上が中心になるかと思っていたのですが、コトラボには20代、30代の人も多くいらっしゃいます。全体としては20代から70代くらいの女性を中心に、幅広い方に参加いただいています。
―反響はいかがでしょう。
小松:コトラボが好きで、月に何度も通ってくださるお客さまもいらっしゃいます。それから、好きな講師の講座に毎回参加するという方と、なにかで講座の情報を得て初めていらっしゃる方。参加者の利用頻度は、なんとなくその3つのゾーンに分かれていますね。月に何度も来てくださる方は、もちろん最初は少なかったのですが、毎日なにかしらの講座を開いていくうちに、コトラボが好き、コトラボに来てなにかを学ぶのが好きだと思ってくださる方が増えてきました。コトラボに通うことが日々のルーティンのひとつになっているというか。
繁谷:そういう方たちがいるのが私もすごくうれしいです。最初はひとりの講師が好きで来ていた方が、だんだんほかの講師やコトラボ自体に興味を持っていただき、お友達を連れて来てくれたりするのもありがたいですね。
―頻繁に通う方たちは、コトラボの特にどんなところが好きなのでしょうか。
小松:コトラボの特徴として、1回のレッスンに対してのスタッフの数が多いんです。なので、お客さまに対して細かいところまで気を配ったりと、“おもてなし感”は強いと思います。
繁谷:そうですね、ときどき上司から注意されるほど手厚いおもてなしをしているので(笑)、それがほかの料理教室とは違うと思ってくださっているのかなと思います。
岡田:コロナ禍になって始めたオンラインの講座もそうですよね。たとえばZoomでの講座では、参加者数の上限を20名までにしていて、これはZoomでは1画面で表示できるのが20名までだからです。講師の方が画面越しに「みなさん、うまくついてこられてますか?」「どれぐらい焼き色がついたか見せてください」と語りかけたりしながら、双方向のやりとりを大切にしています。
岡田:コトラボの手厚いおもてなしは、“ホスピタリティ”とも言い換えられるかもしれません。たとえば料理の講座では、野菜の切り方もしっかりわかるように見せてあげたり、「ナスをフライパンで焼く」という工程も「こうやって焼き付けて、焦げ目はこれくらいにしましょう」という伝え方をしたり、調味料も適当に入れるのではなく、「鍋肌に沿わせて入れたほうが香りが立ちますよ」とアドバイスしたり。そういうちょっとしたことで、おいしさは絶対変わると思うんです。
―『オレンジページ』でも、初めて料理をつくる人も楽しめるよう、徹底的に敷居を下げた誌面づくりをされています。レシピ自体も、何度も改良を重ねて「絶対に失敗しない」ことを追求している。そんなホスピタリティが、コトラボのようなリアルな世界だとより強く体験できるようになるんですね。
小松:オレンジページはすごくお節介な会社だと言われますし、自分たちでもあえてそう言うようにしています。そこまでしなくてもいいだろうっていうところまでやるっていう。
繁谷:先日、まさにそういうことがありました。基本のハンバーグのつくり方を教える講座で、「ハンバーグはみんなつくれて当然」と考えずにいちから丁寧に教えたら、反応がすごくよかったんです。事後アンケートでも「今までで一番おいしいハンバーグができました!」というコメントを多くいただいて。やりすぎなくらい敷居を下げたほうがいいんだなということにあらためて気づきました。
企業研修や食以外のコラボ講座など、さまざまな協業を
―ここからは企業との協業について伺わせてください。これまでどのようなコラボレーションを行ってきましたか?
岡田:コトラボ阿佐ヶ谷ができる前から、新橋本社のキッチンスペースで企業とのタイアップイベントは頻繁に行っていました。食品会社さんが中心ですが、コスメメーカーとコラボレーションをして“からだの内から外からきれいになる!”をテーマにした料理とメイクの講座を開いたり、セミナー形式のものも。育児や生命保険などを扱った講座もありました。
最近新しい形として取り組んだのが、あるスーパーが従業員育成研修の一環として行った料理講座の開発です。テキストの作成から当日の講師、振り返りテストの実施までの流れを繁谷が担当しました。
繁谷:4時間のなかで、「食材の切り方」「魚」「肉」「調味料」の4つのテーマについて座学と調理実習を交えて教えてくださいというリクエストでした。初めての試みであることに加え、扱う領域が広かったので、社内でかなり時間をかけて内容を練りました。
そのなかで、この機会にあらためて見た『オレンジページ』のバックナンバーは大きなヒントになりましたね。基本がしっかりと載っていたので、そこから応用までつなげるという形でテキストをご提案したところ、無事にOKをいただくことができました。
岡田:当日の講座についてもお褒めいただき、第2期の発注をいただくことができました。
―今後、協業において力を入れていきたいことは?
岡田:料理教室だけではなく、五感を使った体験ができる講座やイベントにも注力していきたいです。それこそ、以前化粧品会社さんとコラボレーションしたスキンケア講座のような。オレンジページの強いコネクションやアサイン力を活かしていきたいです。
あとは、これまでは企業とのコラボ講座というと、講座ごと買い取っていただいたり、フルカスタムで講座をいちからつくるという形を多くとってきたのですが、そうではなく既存の講座をアレンジしたり、後援していただくような形の“プチ協業”もあり得ると考えています。
小松:商品を紹介しているようなイベントもたくさんあるので、僕は「こういうおもしろい形で、商品をイベントで使ってもらうこともできるんだ」ということをクライアントさんに見てもらいたいですね。
繁谷:これまでに取り組んできたことで今後さらに広げていきたいなと思うのが、Oisixさんのレシピ監修だったり、調理器具メーカーさんのレシピ開発や講座開発、あとは料理のスタイリングなど。そんなふうに、コトラボの強みを活かしながら多様かつ柔軟な形でさまざまな協業に取り組んでいけたらと考えています。