創刊時から生活者の暮らしにフォーカスし、読者の暮らしを豊かにするための提案を続けてきたオレンジページが、近年「防災」の取り組みに力を入れています。オレンジページが提案する、日常と対極にある災害時への備えとは。メディア事業局長の鈴木善行、『オレンジページ』デスクの吉川いづみ、アカウントプランニング部マネジャー エグゼクティブプランナーの河合奈々子が語ります。


読者の声が教えてくれる災害のこと、防災のこと

—「食」を軸として日常に寄り添った発信をしてきたオレンジページですが、なぜ防災の取り組みが始まったのでしょうか。

河合奈々子(以下「河合」):まず、オレンジページが創刊時から誌面を通して読者とコミュニケーションを重ねてきたという背景があります。雑誌『オレンジページ』には、読者のみなさんからのお便りを掲載する「Orange Post(オレンジポスト)」というページがあり、1995年の阪神・淡路大震災が起きた後は、被災された方々からの生の声や、全国から被災地への応援のメッセージが本当にたくさん届きました。

鈴木善行(以下「鈴木」):もともとオレンジページは読者とのコミュニケーションを大事にしていましたし、当時はまだインターネットやSNSが普及していなかったので、震災後は特にOrange Postが読者同士の伝言板のような役割を担っていました。防災がテーマの雑誌ではありませんが、その後もオレンジページが社会にできることとして、災害に対しても読者の声に寄り添った取り組みを続けていきたいという思いが根幹にありました。

河合:2011年の東日本大震災のときも阪神・淡路のときと同じように、全国からものすごくたくさんのお便りが届きました。被災地の方からのお便りは一人ひとりに状況の確認をしてから掲載したのですが、大変な状況の中で連絡に応えてくださっただけでも本当にありがたかったですし、みなさんとても喜んでくださって…。また掲載された声を読んだ方から「もしかしたら知り合いかもしれない」というお便りなどもきて、ご了承をいただいておつなぎしたりと、あのときもまさに読者のコミュニケーションの場になっていました。

それぞれの震災のあと誌面に掲載された全国からのたくさんの声。阪神・淡路大震災後のメッセージは非売品の冊子として一冊にまとめられた

—読者との誌面を通じたやりとりが新たな防災の取り組みにつながっていくというのは、まさにオレンジページらしさではないでしょうか。

吉川いづみ(以下「吉川」):そうですね。Orange Postは防災に限ったものではなく、今もお便りを募集し掲載を続けています。毎号のように切手を貼って送ってくださる読者の方は本当に貴重な存在ですし、いただいた一人ひとりの声に寄り添っていくというのは創刊当初からの編集部の精神です。

—そこから防災の取り組みはどのように発展していったのでしょうか。

吉川:現在は年に2回ほど、誌面で防災の企画を立てています。ただ、「ほどよい手間でよりよい毎日を。暮らしがはずむ、オレンジページ」というキャッチコピーの通り、防災を扱うとしても、やはり暮らしが楽しくならないといけない。その姿勢を忘れずに、暮らしに取り入れやすいことや、その先に「おいしい」や「楽しい」があるような提案ってなんだろうと考えながら企画しています。そうした企画を積み重ねて見えてきた視点が「いつでも防災」です。例えばペットボトルやペーパータオルなど、日常的に身近にあるものをうまく防災に使ったり、段ボール一つ分くらいのストックや、防災リュックではなく防災ポーチを用意しようなど、気軽にやってみようと思える提案を積み重ねています。

左から、鈴木善行、吉川いづみ、河合奈々子

本当に暮らしに役立ちポジティブに取り組める防災

—災害に対する備えを特別なものとしてではなく、読者の生活にリアルに取り入れられるものとして扱うというのは、従来のオレンジページのレシピなどと同じスタンスの提案ですね。

吉川:はい。読者などへのアンケート結果では、防災用品を用意していたけれど、実際に被災したときにはあまり役に立てられなかったという声がありました。災害対策に必要なものを調べて100点満点の防災備品を揃えるというのはハードルが高いと感じる方も多いと思います。だからこそ、いざというときに、普段から家にあるものでどうにか工夫してできるという、その知識や知恵こそがより防災として役立つのではないかというところからスタートしました。

—まさに読者の方と一緒に知恵を集結してつくり上げていった防災の提案ですね。

鈴木:そうですね。リアルな本音を読者のみなさまに聞いて、編集部で本当に生活の中で実践できるのかどうかを検証しながらつくっているコンテンツです。

従来のレシピと同じ視点で、生活者の日常に寄り添った防災の提案に取り組む

河合:誌面で積み上げてきた防災の企画ですが、名前の通り“いつでも”防災の情報に触れられるように、2021年にはWEB上に「気持ちにゆとりが生まれる オレペのいつでも防災」という特設サイトを立ち上げました。オレンジページの読者やWEBを見にきてくれる方を不安にさせたり煽ったりするのではなく、私たちが防災を発信するのであれば「普段の生活の中でこれならできそう」とか「私でも今日から試せるかも」という風にポジティブな気持ちになってもらえるような提案をしたいということで、その思いをWEBのタイトルに込めています。

—具体的にはどういったことが日常に取り入れられる防災なのでしょうか。

河合:例えば「ローリングストック」というのは、今はだいぶ一般的になってきた食料備蓄の方法で、普段から食べている食品をちょっと多めに買って「備える」「食べる」「食べた分を買い足す」を繰り返すというものです。被災していつもと違う環境の中で食べ慣れていないものを食べるというのは、すごくストレスがかかるということが読者などへのアンケートからも分かっていたので、精神的にも栄養的にも安心を得られるという視点で、普段の食生活の中で回転させながら備蓄していくやり方を紹介しています。また、ここ数年で注目されてきた「フェーズフリー」というキーワードがあります。これは“いつも”と“もしも”の境をなくすという考え方で、ローリングストックもその中に含まれますが、オレンジページの根幹にある“いつも”視点の防災にマッチするところが大きいのではないかと思います。

吉川:暮らしを豊かにするためのことが実は防災にもなっているという視点は、まさにオレンジページの追い求めるところです。例えば、読者の方の中には、自分が疲れ果てても食事は手づくりのものでなくては、と感じる方がいます。その方に、家族でレトルト食品を利用することはローリングストック=防災にもつながるんだよ、と提案できれば、日常の中においしくて安心できるレトルト食品を取り入れるきっかけにもなるのかなと。ポリ袋を使った時短クッキングや、ものの少ない暮らしの提案などもそうです。ものが少ない暮らしは、非常事態に家の中で怪我をする可能性を減らしたり、ポリ袋クッキングのアイデアは、電気が止まったり水が限られてしまったときに応用できる実践のための知恵になったりします。特別に防災のためということではなくオレンジページの提案する生活を実践していたら、いつの間にか非常時を乗り越える知恵がついていた、という状態が理想だと思っています。その視点は編集部の中にも芽生えていて、普段から発信する情報を選択する際に、防災という側面を意識するような気持ちが少なからず出てきています。

暮らしの中でできる防災のアイデアを厳選したWEB特設ページ「気持ちにゆとりが生まれる オレペのいつでも防災」

伝えたいのは一生ものの知恵やマインド

—すでにタイアップ企画などでクライアントさまとともに発信しているものもありますが、他分野と一緒に取り組むことで「いつでも防災」の可能性が広がりそうでしょうか。

河合:今はローリングストックも浸透してきましたし、すでに様々な企業が防災に取り組んでいるので、オレンジページと一緒に取り組む意義を明確に打ち立てていかないと難しいということを課題として感じています。今後のタイアップとしては、例えば、被災すると移動手段や連絡手段が混乱することが多いので、そこを解決するようなクライアントさまともご一緒できたらいいですし、またアンケート結果から、子ども、年配の方、障がいのある方などの社会的弱者やペットのいる方などの悩みが突出していることも分かっているので、そうした方たちのケアもしていきたいです。

—生活者のリアルな声に寄り添いながら生活者と一緒につくるというのは、創刊時から読者同士をつなぐハブとして機能してきたオレンジページが、タイアップする企業に対して提供できる価値でもありますね。

河合:例えばライオン株式会社さまのタイアップでは、「家族の健康を守る!清潔・健康ケア用品のおうち防災備蓄」という記事をつくりました。そこでは、歯磨きができない状況でも、ペットボトルのキャップ一杯の水で口をすすぐことができるなど、被災時に活かせる口腔ケアのちょっとしたスキルを紹介しています。単純にクライアントさまの商品をお勧めするのではなく、それを日常の中でどう使うか、なぜそれが防災になるのかという、あくまでも読者の防災の知恵となるようなものを発信していきたいと思っていますし、オレンジページを読んでいたらいつの間にか身についていたというくらい日常に取り入れられることを意識しています。

—今後のオレンジページの防災の展開を教えてください。

河合:先日、秋葉原の高架下に「キャンプ練習場 campass」がオープンしました。オレンジページはここでこの秋にイベントを企画中です。電気やガスがなく水も限られているようなキャンプの環境は、避難所の状況とも近いので、家にある避難リュックだけでキャンプ場で一晩過ごすような、擬似体験のワークショップなどを考えています。以前私たちの部署のメンバーが、電気・ガス・水道を使わずに3日間自宅で過ごすという、災害時の擬似体験にチャレンジしました。実際にやってみると、真夏にも関わらず温かいものを食べたくなる、薄暗い中では食事の準備が難しい、などの発見がたくさんありました。やはり実際にやってみることで、その防災が本当に現実的なのか、身につけておきたい実用的なスキルが何なのかなども見えてくるので、そうした実践的なワークショップには今後取り組んでいきたいと思っています。ものは使えなくなったり食べたらなくなってしまったりしますが、スキルや知恵は一生ものなので、オレンジページの「いつでも防災」ではそのマインドを伝えていきたいです。

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