毎月2回刊行している雑誌『オレンジページ』。2022年8月、編集長に社外から松田紀子を迎え、その誌面はブラッシュアップされました。一方で、1985年の創刊以来変わらないのは、読者との距離の近さ。そのオレンジページらしさはどのようにして生まれ、受け継がれているのでしょうか。デスクの長谷川美保、副編集長の稲垣佑喜代と、SNSの運営やWEBサイト「オレンジページnet」を担当している堀部有香が語ります。


誌面を通して生まれる、読者とのダイレクトなやり取り

—まずは『オレンジページ』のコンセプトについて教えてください。

長谷川美保(以下「長谷川」):松田編集長を迎え、少しリニューアルしたところがあります。たとえば、それまでは表紙に入れていたキャッチコピーが「暮らしに『おいしい』と『ワクワク』を。」だったのですが、「ほどよい手間でよりよい毎日を。暮らしがはずむ、オレンジページ」と変更しました。まさにこれが『オレンジページ』のコンセプトで、ハレとケといったら「ケ(=日常)」、ごちそうを作ったり特別なことをするのではなく、普段の暮らしを楽しくするということ。「ちょっとしたことで、こんなにも生活が弾むよ」ということを提案しています。

ただし、根本はこれまでと変わっていません。「暮らしに『おいしい』と『ワクワク』を。」をもう少しくわしく言って、目的をより明確にしたかたちですね。

―近年のレシピといえば時短を追求しているものも多いですが、そんななかであえて「ほどよい手間」と言うのは、『オレンジページ』ならではかと思います。

長谷川:新しいキャッチコピーを考えるうえでは、読者の多くから「ちょっとの手間でおいしくできるならやりたい」という声をいただいたのもヒントになりました。すごく大変な作業だったらやらないと思うのですが、「ほどよい」というところがポイントです。

左から、稲垣佑喜代、堀部有香、長谷川美保

―読者とのつながりが強いことも『オレンジページ』の特徴のひとつですよね。そのことも踏まえて、誌面づくりで大切にしていることはありますか?

稲垣佑喜代(以下「稲垣」):『オレンジページ』には、先輩方から脈々と受け継がれてきた“人を傷つけないやさしさ”のようなものが強くあると感じていて。誌面をつくるうえでは、「この言い回しだとどう受け取られるかな」「こういう表現で読者のなかに傷つく人はいないだろうか」と常に考え、それがすべてのページに反映されています。小さい子から高齢の方まで、幅広い読者の誰が見ても誤解のない言葉を使うように気を配っています。

長谷川:“脅さない言葉”や“あおらない言い方”とも言えますよね。たとえば美容の特集だったら、「これをしないと老けて見えるよ!」という言い方ではなく、「こうするとマイナス5歳に見えるよ」というような、ポジティブな表現にしています。入社当時からよく言われていたのが、“半歩先を行く”という考え方。メディアとして読者をぐいぐいリードするというよりは、寄り添って一緒に歩くようなイメージです。

―読者との距離感を大切にしているんですね。

長谷川:そうですね。『オレンジページ』には読者のお問い合わせダイヤルが設置されていて、みなさん、けっこう気づいたことをご連絡してくださるんです。このあいだすごいなと思ったのが、編集部員がなにげない日々のエピソードを書く「EDITOR’S COMMENT」というコーナーで、「スーパーでよく買うのは砂ぎも。母から受け継いだ定番の食べ方をしてます」といったコメントがあったんです。そうしたら、「そのレシピ教えてください」と問い合わせがあって。そういうダイレクトなやり取りがあるのはうれしいです。読者からのおたよりを、編集部員のコメントを添えつつ紹介する「ORANGE POST」のページもずっと人気です。

“中の人”が誌面に出ることで、より身近な存在に

―最近は編集部員の顔、いわゆる“中の人”が見えるようなコーナーがいくつかありますが、意図的に増やしているのですか?

稲垣:もともと『オレンジページ』の編集者はあまり表に出ず、控えめなところがあったんです。でも松田編集長が着任し、「もっと自分たちが出ていってファンをつくろう!」、それくらいの意気込みで顔が見える機会を増やそうということになりました。

長谷川:その号で自分の“推し”のページを紹介する「赤羽橋からこんにちは!」というコーナーや、日常を語る「EDITOR’S COMMENT」、それから編集部員が愛してやまないモノについて語る「偏愛連載」もあります。

東京・赤羽橋は『オレンジページ』編集部がある街。編集部員の“ガチ推し”レシピや記事を紹介している。

―「偏愛連載」では稲垣さんも「おうちから揚げ」について語っていましたよね。

稲垣:もうひとりの副編集長が、ベーグルが大好きで松田編集長にプレゼンしたところ、「そんなに熱い愛があるんなら、編集者が好きなものを紹介するページをつくったほうがいいよ」と言われ、私も担当することに。とにかくから揚げが好きなので、おいしい“おうちから揚げ”を目指して衣の種類や肉のサイズを検証し、紹介しました。きっと、同じようなことで悩んでいる読者の方もいると思うんですよね。それを「私が研究してみました」というかたちで披露することで、より身近な存在に感じてもらえたらいいなという想いがありました。

―松田編集長は社外の方だったからこそ、客観的な目で『オレンジページ』のポテンシャルを高めようとしたのでしょうか?

長谷川:それはあると思います。松田編集長は「表に出ていって編集者自身のファンを増やすことが大切だから」とおっしゃって、テレビの取材などでも自分たちが出ていくようにと言われています。

稲垣:『オレンジページ』に載っているレシピはすべて編集部内で試作していて、以前はそのことを表紙に小さく書いていました。でも松田編集長が「もっと大々的に言ったほうがいい」と。「誰がつくっても絶対に失敗しないように試作していることは大きな特長なんだから」と、表紙の表記を大きくすることにしました。

表紙のタイトル下に「全レシピ 徹底試作ずみ だれでも作れますよ」の文字が大きく入っている。

堀部有香(以下「堀部」):ちなみに、中の人が見えるようなコーナーは「オレンジページnet」にもあります。雑誌とWEB、2人の編集長のふだんの顔が見える往復書簡的な連載「蟹座、もうすぐ50歳」や、編集部員が食やファッションネタ、“推し”や撮影の裏話まで、ちょっと素敵で役立つものを紹介する「きょうのSmall Good Things」という連載もスタートしているんですよ。紙、WEBともに、ファンを増やしていこうと頑張っています。

―オレンジページ社の人事ポリシーに「生活者であれ」とあるように、一人ひとりが“生活者である意識”を持っているところもオレンジページの強みかと思います。雑誌を編集するうえでもその強みは活かされているのでしょうか

長谷川:生活のなかで実感したことから発想し、それを広げていって読者に届けることをしています。たとえば、大さじ4といった少ない油で揚げ物ができたらいいなという実感から、それをテーマにした企画を立てるとか、「オーブンだとちょっと面倒だから、もっと手軽にパンが焼けたらいいな。じゃあフライパンで焼いてみよう」とか。突拍子もないところからテーマを持ってくるのではなく、日々の暮らしのなかで感じたことを拾ってテーマを出すことが多いですね。そこにきちんと根拠をつけ、広げていくことで誌面をつくるようにしています。

オレンジページらしいWEBの使い方でファンを増やしたい

―最近の『オレンジページ』で注力していることはありますか?

長谷川:WEBとの連携でしょうか。「オレンジページnet」の編集部員と一緒に撮影に行ったり、動画を撮ったりしています。

堀部:誌面制作の裏側や、誌面で伝えきれないことを補足するような動画をYouTubeやSNSに載せています。たとえばケーキの作り方や、魚のさばき方は動画もあったほうがわかりやすい。そういうものは、動画の閲覧ページに飛ばすQRコードを誌面に載せることもあります。

稲垣:「オレンジページnet」の編集部員も本誌の企画会議に参加してもらっているので、密に情報共有ができるんです。

堀部:「オレンジページnet」やSNSは、本誌のファン以外の方も多く見てくれる出会いの場。WEBでは時短レシピが求められたりするので、本誌とは違ったアプローチもしつつ、そのなかでもオレンジページらしいエッセンスが感じられるようなものを提供したいと考えています。そこから、最終的にオレンジページのファンになってもらえたら。

SNSではとがった内容のほうが注目されることも多く、それはそれで大事なのですが、私たちはオレンジページらしい丁寧さややさしさを表現したいと思っていて。ちょっとしたリプライや季節に合わせたツイートで、ユーザーに寄り添えるように心がけています。

日々よいコンテンツを出して信頼感を得ているからこそ、ときどき少しチャレンジングなことを発信しても、「オレぺが言ってるんだったらつくってみようかな」と感じてもらえたらいいなと思います。

―信頼される情報を発信するために行っていることはありますか?

堀部:インスタグラムもそうですが、みんなで運営している=みんなの目がある、というのは重要かもしれません。担当がひとりにならないようチームで動いたり、シフトを組んで投稿したりと、間違いや偏った情報にならないようにしています。

―それによってカドが取れてしまうジレンマはありませんか?

堀部:それは、あります。やっぱり、ひとりで運営するほうが個性が色濃く出ますし、SNSって本来はそういうものですよね。でも、「オレンジページ編集部」という名前にしているからには、輪郭をオレンジページ編集部に寄せていくべきだと思っているんです。その根幹として丁寧さややさしさを忘れず、子どもから70代、もっと上の方まで、誰が見ても発見があって楽しいと思ってもらえるようにしたいです。

読者ミーティングで聞いた生の声を誌面づくりに活かす

―月に一度開催している読者ミーティングとはどういうものですか?

稲垣:誌面づくりが一方的な情報提供にならないよう、読者から生の意見を聞くものです。毎月第3水曜日にZoomで開催していて、今は半年間の期間を決めて7名の方に参加していただいています。

読者ミーティングで得た意見は、企画を立てるうえで本当に参考になるんです。たとえば、夏の麺特集では何年も冷凍うどんを中心にしていたのですが、「夏はなんの麺類を食べてますか?」と聞いたら、圧倒的に素麺だと。「冷凍うどんは?」と聞くと、「夏は野菜やアイスクリームで冷凍庫がいっぱいなので、場所を取る5連結の冷凍うどんは買いません」と言われてしまったんです。それがすごく衝撃で、あんなに冷凍うどんの特集をやってしまってすみませんと…(笑)。それで、今夏の麺特集では、冷凍うどんのほかに中華蒸し麺も使いますし、素麺も絶対に外さないようにしました。

―読者ミーティングは松田編集長の着任後に始めたのですか?

稲垣:今の形式は、松田編集長になって初めて開催しました。最初はファックスで質問への答えを戻してもらうという形式から始まりました。その後、読者のおうちにお邪魔して、家のなかを見せていただいたり、日々の暮らしの悩みを聞く「お宅訪問」に変化し、さらに現在のZoomで意見を交わすという形になった、という流れです。

―お宅訪問はハードルが高そうですね。

稲垣:おうちを見せてくださいと頼んで「どうぞどうぞ」と言う人はあまりいないと思うのですが、オレぺの読者の方は割と前向きに受けてくださる方が多くて。編集部員が2名でお邪魔して、冷蔵庫の中の写真を撮らせていただき、「これがどうしても使いきれないのよ」という調味料を持ち帰ってみんなに共有し、「じゃあ次はこういう企画を立ててみようか」というふうに活かしていました。

―みなさんのなかで「オレンジページらしさ」のコンセンサスがきちんと取れていますよね。編集会議では生活者としての事情をさらけ出すことも必要になると思いますが、お互いの暮らしや価値観が見えてくるからこそ、会議のなかで「オレンジページらしさ」が育まれていくのでしょうか。

長谷川:会議のときもしかり、企画を立てるときにも、「これって読者はどう感じるかな」と考える過程を毎号経ているので、読者に寄り添う「オレンジページらしさ」が染みついているのかもしれません。

稲垣:たしかに、新人のころ、原稿を書くなかで「この表現だとちょっとオレンジページっぽくないんじゃない?」という感じで教わっていました。入社して最初に「ORANGE POST」を担当したとき、当時の編集長に「コメントが全然読者に寄り添ってないから、もっと寄り添うように」と言われて全部直したんですよ。そのときから『オレンジページ』を読み込んで、先輩たちがどう寄り添っているかをすごく学びましたし、今、自分で書くときにもすごく大切にしています。

―今後の展望を教えてください。

長谷川:紙に限らずWEBや商品開発、イベントなど、あらゆるシーンでオレンジページのファンが世の中に広がっていけばいいなと考えています。誌面はそのための軸であり出発点なので、そこの信頼は絶対に失ってはいけない。そういう意味でも、ぶれないようにしっかりと誌面をつくり、ファンの裾野を広げていきたいです。