オレンジページを動かす、さまざまな部署の個性的なメンバーたち。それぞれのワークスタイルから、多岐にわたる業務やオレンジページのカルチャーが見えてきます。今回は販売部のマネジャーである油野 宏に話を聞きました。普段の仕事内容や日々抱いている販売部としての想い、そして自身の「生活実装」について語ります。


地道なアプローチの積み重ねこそが販売部の仕事

—販売部の業務やマネジャーの役割について教えてください。

油野宏(以下「油野」):販売部はその名の通り、つくったものを「売る」部署です。大きく分けて営業・内勤・宣伝にわかれていて、営業は出版社と書店を仲介する取次や各書店、その他の直取引を担当。内勤は物流業務を担っており、つくったものを取次に送品したり集金したりする仕事です。それから、出版物のプロモーションをするのが宣伝。私は主に営業を担当していますが、マネジャーでもあるので全体の統括管理もしています。

そのほかにマーケティング業務もあります。本をつくるにあたって、編集者から上がってきた企画に対し、他誌の売れ行きやトレンドを踏まえ、売れるものにしていくためのサポートをします。

—本を売るだけではなく、つくる本に対して市場の状況も踏まえて客観的に判断するという、重要な機能を果たしているわけですね。

油野そうありたいと思っています。今は出版市場自体が厳しくなっていることもあり、どの出版社もいかに編集部と販売部が協力しながらやっていくかが重要で、私たちもそれを意識しながらやっています。

—マネジャーとして販売部員のフォローなどもするのでしょうか。

油野仕事で困ったことや悩みごと、やりたいことなどをいい方向に持っていけるよう、それぞれの話をできるだけ聞くようにしています。私はマネジャーで上に部長と局長がいるので、その橋渡し的な役割ですね。

—記憶に残った最近の仕事を教えてください。

油野:『味つけ黄金比率で基本の料理100』という本があります。2019年に出版した本ですが、今も売れていてロングセラーとなっています。本というのは、ある程度のところまで売れると、あとはもう営業の力によるところがありまして。その先の売上を伸ばせるかどうかは、書店でどのように展開するかにかかっています。書店に対して「ちょっとでも積んでみてくれませんか」「20冊くらいどうですか」と交渉し、それが当たり始めると周りの書店に派生していくということもあります。『味つけ黄金比率で基本の料理100』もそうやってアプローチを重ね、現在は13万部まで発行部数を伸ばすことができました。

—地道なアプローチで大きな数字にしていくのですね。

油野:月に2回発行されている雑誌『オレンジページ』のように展開の仕方が決まっている定期刊行物よりも、ムックや書籍などの単発のもののほうが、そういう動きを生み出すことがあるかもしれません。ただ、『オレンジページ』の販売部数を伸ばしていくというのは大前提の使命ではあります。

信頼関係を築くリアルなコミュニケーション

—油野さんの1日の仕事の流れを教えてください。

油野私はあまり在宅勤務はせず、基本的には出社して仕事をしています。だいたい朝は7時頃に起きて、パッとメールを確認してから自宅を出ます。会社に着くのは10時くらいでしょうか。まず各書店の売上データをチェックして、前日になにがどれくらい売れたのか、どこから注文が来ているかを把握し、トレンドや周辺の状況を掴むというのが朝のルーティンです。

在宅勤務ではなく出社するのは、業務内容的にそのほうがやりやすいからでしょうか?

油野:そうですね。営業というのは「情報をどう取るか」というところがあるので、実際に動きがあるところで仕事をしたほうがいいと感じています。やはり会社に来て、コミュニケーションをとるなかで得られるものがあると思います。 午前中はそのほかに週に1度、編集部との刊行ミーティングがあります。編集部の企画内容に対して販売部の意見を伝え、上層部の経営会議に提出するために内容を詰めていきます。

—まだ形ができあがる前の苗床を温めて、企画をブラッシュアップしていくような打ち合わせですね。

油野種をどう膨らませて芽吹かせていくかということを、編集と販売それぞれの視点から意見を交わし、より良い企画にしていきます。どちらも真剣ですし、当然バチバチすることもありますね。最初のころはなかなかうまくいかないこともありましたが、時とともに少しずつ関係性ができてきたと感じています。「売る」ということに関しては私たちを信頼してもらい、関係を深めながらより良い方向にしていきたいと思っています。

—午後はどのような業務内容でしょうか。

油野日によって異なりますが、午後からは大きな書店との商談があったりします。商談では新刊や売れている本などをこちらから提案し、市況や近況をバイヤーと話します。商談が終わったあと、時間があれば近くの書店を回り、営業をしたり店頭の売れ筋などの情報を聞いたりしています。

書店を回って、夕方頃に会社に戻ってからは事務仕事に取りかかります。取次に対してメールや電話で仕入部数を決める交渉をしたり、刊行物のISBNや雑誌コードのチェックをしたり。コードチェックに関しては、営業が一番間違えてはいけないと言われるところで、3人体制でチェックしています。そのほかに各部員や上司との打ち合わせなどもあり、だいたい19時くらいに退社となります。さらにそのあとに社内の「部活動」に参加することもあります。

—油野さんは「日本酒部」に所属しているそうですが、オレンジページ社内の部活動はいつ頃から始まったのでしょうか。

油野部活動は2016年に始まった社内活動で、メンバーと活動内容を届け出て、年に1度活動報告をする会があります。部長は交代制で、私は3年前くらいから日本酒部の部長を務めています。日本酒部では講師を招いてお酒の種類や味の特徴などを教えてもらい、いろいろなお酒を味わいながら学んでいます。もともとお酒が好きなので純粋に勉強になるということもありますが、部署の違う社員とコミュニケーションを図る機会にもなるおもしろいカルチャーだと思います。

―休日に行っている趣味はありますか?

油野:私、マラソンランナーなんですよ。去年はフルマラソンを3本走りました。醍醐味はいくつかあるのですが、ひとつは、最後に綺麗にゴールできるかということ。バテたときはこんなに苦しいことはないと感じるほど過酷なのですが、きちっときれいに走れたとき……42km走ってもまだ足が元気という意味でよく「足が残る」と表現されるんですが、そういうときは快感としか言いようがなくて。ほんの少しのリズムの乱れで結果が大きく変わるところも含めて、フルマラソンはおもしろいなと感じます。

業界の視点と生活者の視点、その両方から本を売る

—仕事をしていて、うれしさややりがいを感じるのはどういう場面ですか?

油野やはり本が売れたときが一番うれしいです。営業は素朴なアプローチの積み重ねなので、なにかを仕掛けたりお願いしたりしたものが売れるというのは、純粋にやりがいにつながります。それから、数字の予測が当たったときもうれしいですね。いろいろな過去のデータをもとに算出した予測がドンピシャだったりすると快感を覚えます。

予想以上に売れるのはもちろん本当にうれしいことですが、それでも、そこまで伸びることを予測したかったというのは、個人的な思いとしてはあったりします。

—反対に、業務のなかで苦労するのはどういうところでしょうか。

油野:社内の会議ですね。自分がやりたい企画だからこそ会議に出すわけですが、こちらの思いだけではダメで、数字の面や会社の方向性なども汲み取りながら最善を考える。私は器用ではないところがあるので、どうプレゼンしたら納得してもらえるかというところでいつも苦労します。

—会社の働き方やカルチャーで気に入っているところを教えてください。

油野やはり部活動は非常に楽しいですし、やりがいもあります。今、その活動をもう少し会社に貢献するような内容に発展させるべく模索しているので、さらにおもしろくなっていくと思います。

また出版社としてのオレンジページのおもしろさは、発行部数が大きいという点が挙げられます。約18万部という大きな部数のものを扱うのは、出版営業の醍醐味かなと思います。私は転職で入社しているので、会社のネームバリューも身を以て感じていますが、営業スタイルとしてはそれまでと変わらず実直に丁寧に進めることを大切にしています。

—油野さんはどのように「生活実装」を実践しているのでしょうか。

油野もともと料理が得意だったわけではないのですが、『オレンジページ』のレシピは毎号ひとつでもつくってみて、生活者の視点やその体験を大切に営業するようにしています。 また「生活者であれ、創造者であれ」という人事ポリシーのなかに、「新しい価値」や「ワクワク」などの言葉がありますが、販売部の仕事は地味なことが多く、基本的にはそれまでの定石をベースに考えていきます。それでもうまくいかないこともありますし、新しい売り方を模索もします。そのなかで、ちょっとしたひらめきが新しい売り方に結びつくこともある。そのひらめきを育てることが私にとってはクリエイティブであり、「創造者」とつながるのかなと思っています。