オレンジページを動かす、さまざまな部署の個性的なメンバーたち。それぞれのワークスタイルから、多岐にわたる業務やオレンジページのカルチャーが見えてきます。今回話を聞いたのは、エディトリアルコンテンツ部の担当部長を務める谷本あや子。ムックや書籍を手がける編集者としてのやりがいや苦労、そして入社以来関わり続けてきた料理系コンテンツへの思いなどを語ります。
やればやるほどおもしろい。料理上手ではないからこそ飽きない料理本の世界
—エディトリアルコンテンツ部の業務と、谷本さんの役割について教えてください。
谷本あや子(以下「谷本」):エディトリアルコンテンツ部は、書籍やムック、雑誌などを制作する部署です。私は書籍とムックの編集を担当しながら、管理職として計画を立てたり業務フローを整えたり、後輩の業務をチェックしたりもしています。
編集に関しては、『オレンジページ』本誌のコンテンツを再編集したレシピのムックシリーズなどを担当することが多いです。最近の刊行物では『#俺たちのオレンジページ』シリーズや『オレンジページvege』シリーズ、料理研究家の小林まさみさんや飛田和緒さんの書籍などを担当しました。
—谷本さんは1999年に新卒で入社しています。入社からこれまで、どのような仕事を経験してきたのでしょうか?
谷本:オレンジページの新入社員はまず料理のページを担当することが多く、私は『オレンジページ』本誌の巻頭の料理特集や料理の連載、巻末のおかずのページなどを担当しました。最初は先輩について仕事を覚え、レシピの試作をしたりもしましたね。そのあとも料理のコンテンツだけを扱う『オレンジページCooking』という雑誌や料理系のムック、そして再び『オレンジページ』本誌などで、ずっと料理系のコンテンツを扱ってきました。
—もともと料理が好きだったのでしょうか? 経験を重ねていくなかで、料理への向き合い方に変化はありましたか?
谷本:料理が好きで料理のコンテンツをつくることにも興味がありましたが、経験を積むなかでどんどんおもしろくなっていった気がします。オレンジページにはブランド価値や先輩たちが紡いできた人脈があり、仕事を始めると料理研究家の方やすばらしいスタッフの方々と出会うことができました。そのおかげで料理ページがどんどん好きになり、もっともっと料理のコンテンツをやっていきたいと思うようになりました。私自身は料理が上手いわけではないんです。自分で新しいレシピを考えたりするのは得意ではなく、いつまで経っても手際が悪い。ただ、だからこそ料理コンテンツを飽きずにつくり続けられるのかもしれないと思っています。
—谷本さんの1日の仕事の流れを教えてください。
谷本:いまは週に2回くらい出社し、それ以外は在宅で勤務しています。午前中はだいたいメールの返信や原稿チェックなどの作業をし、同じく自宅で仕事をしている夫と昼食をとります。食事はなるべく決まった時間に食べたいので、一旦仕事を中断してきちんと食べ、その後に仕事を再開するようにしています。出社する日は昼食後に会社に行くことが多いですね。会社では対面の会議や打ち合わせ、写真の色校正などを進め、家に戻り軽く食事をしてから原稿チェックや校正作業をします。会社にいるとなかなか集中して時間を使えない業務は家でやることにしています。
—在宅勤務でも仕事の時間と食事の時間をしっかり切り替えているんですね。
谷本:そうですね。正しい時間に食事をすることにしたのはコロナ禍以降です。毎日出社していたころは、夜はお酒とおつまみだけになりがちでしたが、在宅勤務になり休憩の時間をコントロールしやすくなったので、私自身も夫も、以前よりは健全な生活スタイルになったと思います。
想像以上のものが生まれる喜びと、読者が求めるプラスアルファの価値
—谷本さんにとっての仕事の楽しさややりがいを教えてください。
谷本:やりがいはやはり読者からの反応でしょうか。昔は手紙やハガキでしたが、最近はメールや電話、SNSなどでご意見をいただきます。その内容がどのようなものでも、窓口のスタッフが必ず担当者に伝えてくれるので、とても励みにもなり、勉強にもなります。料理の本は読者に大きな衝撃や感動を与えて人生を変えるものではなく、読者の生活にじわじわと染み渡り、何度も開いているうちに欠かせない存在になっていくようなものだと思います。読者からそういった反応をいただくと、つくった本が役に立っていると感じ、うれしいです。
—読者からの反応は、メールや電話以外に直接受け取る機会はありますか?
谷本:『オレンジページ』本誌では定期的に読者座談会が開かれていますが、私たちのチームでは、書籍の刊行記念の講座などで、読者のみなさまとお会いする機会があります。オレンジページが運営する阿佐ヶ谷の料理教室「コトラボ」で、誌面でお世話になった料理研究家の先生に教わりながら一緒に実習をするんです。そこではみなさん積極的に質問してくださり、読者の方が疑問を抱いたり迷ったりするポイントを知る機会にもなっています。だいたい少人数の講座なので、読者の方とじっくりお話ししたり、直接感想をいただいたり。とてもいい時間だなと感じています。
—雑誌や書籍は編集者だけでなく、外部スタッフも含めたくさんの人が関わりできあがります。チームでつくるものづくりの醍醐味について教えてください。
谷本:最初に自分で考えたコンセプトとほかの人のアイデアの組み合わせで、想像以上のものにたどりつくことが結構あるんです。まずは頭のなかで完成のイメージを描き、企画を立てますが、打ち合わせを進めるなかでスタッフからいろいろなアイデアが出てきます。『#俺たちのオレンジページ』シリーズも、私がコンセプトを伝えたところ、デザイナーから漫画『ひらやすみ』の作者である真造圭伍さんの絵を表紙にする提案をいただきました。それは料理本の畑にいる私には意外な選択肢でしたが、真造さんの作品に親和性を感じ、チャレンジする価値があると思ったんです。実際にそのアイデアを形にしてみたら、すばらしいものになりましたし、読者の方もその意外性を喜んでくださいました。こういうことが起こるのが、チームでつくるおもしろさだなと感じています。
—編集者として書籍やムックを一冊つくる工程のなかでは、どのようなことにやりがいを感じますか?
谷本:構成を考えるところでしょうか。構成は編集者として自分が最も力を発揮できるところで、同時にとてもしんどい部分でもあります。一番時間がかかる大変な工程ですが、その道筋さえ見えれば、あとは編集の作業を進められる。すごく苦しいからこそ、道が見えたときの喜びがあり、そこにほかのスタッフのアイデアがかけ合わされて、実際に形になっていくときは本当にうれしいです。
—いまはインターネットに無料の情報があふれる時代ですが、販売する媒体の制作や情報発信ではどのようなことを価値だと捉えていますか?
谷本:お金を出して買っていただくものなので、やはり価値のある情報がまとまっていて、自分の手元に置きたいと思ってもらえるものをつくらなくてはいけません。それは純粋にレシピの情報だけでなく、その料理の背景に共感できたり、いまの自分の気持ちに合うと感じられるなど、その料理をつくりたいと思うきっかけとなるものだと思います。SNSの短い投稿でも、レシピ以外の文章を添えたものとレシピだけを紹介したものでは、みなさんの反応が違うんです。たとえばレシピにまつわるストーリーや、季節や気候に合わせてつくりたくなるような情報など。そういうところに価値を見出してくださっているのかなと感じています。
生活者だからわかる日々の悩みと求めるもの。そこに寄り添い、つくり続ける
—社外のスタッフと関係性を築き、一緒に制作をしていくうえで心がけていることはありますか?
谷本:お仕事をお願いするときには、どんな表現をする方なのか、どんなことを大事にしている方なのかなどを理解し、私たちがつくりたい本のコンセプトやテーマに対しての考え方を共有します。そのうえで、一般の読者が使いやすい実用的な媒体になるよう表現を模索していきます。スタッフの個性や思いを生かしながら、読者の求めるほどよさで情報を発信する。そのバランスはとても意識しています。
—会社の働き方やカルチャーで気に入っているところを教えてください。
谷本:社内は殺伐とした空気がなく、どちらかというと牧歌的な雰囲気で、そこはいいところだと思っています。社員はみんな、オレンジページという会社が信頼感を得ていることが、自分たちにとって価値のあることだと感じているので、そこに対し誠実であろうとしている人が多い気がします。一方で個性的な人も多く、みんなが自然体でいられる。働きやすい環境なのだと思います。
—社員同士が個性を尊重し合い、いい刺激を与え合っている印象があります。谷本さんは仕事とは違う領域の趣味などはありますか?
谷本:小学校高学年のころから歌舞伎が好きなんです。当時私に歌舞伎のおもしろさを教えてくれた友人は、いまは歌舞伎の研究者になりました。料理研究家の先生を紹介して歌舞伎と料理の講座を一緒に開催したこともありましたね。
それから、旅行はすごく刺激になります。以前は料理関係のスタッフの方と海外で落ち合うこともあり、料理関係の方が海外でどんなものをおもしろがって食べているのか、どんなものに手を伸ばすのかなど、興味深く見ていました。
—最後に、「生活者であれ、創造者であれ」というオレンジページの人事ポリシーをどのように捉え実践しているか教えてください。
谷本:いまは同世代で忙しく働いている人が多いと思います。その多くの人が抱える日々の家事に対する悩みは、まさに私自身も持っているものです。「もうちょっとこうだったらいいのに」という生活者としての欲求が、媒体をつくる動機になっていると思っています。あまり料理が得意ではないし、どちらかというと面倒くさいと思っている。おいしいものを食べたいけれど日常的に手の込んだことはできない。そんな生活者の気持ちに寄り添う大切さを新人の頃に教わり、いまでもとても意識しています。
また季節の変化や行事ごとに対して、楽しみを感じて大切にしていきたいです。そういうときは普段よりもちょっとがんばりたいという方もたくさんいると思いますし、私も忙しいなかでも楽しみを感じながら日々を過ごしていきたいです。