2017年にスタートした「次のくらしデザイン部」は、生活者の声をもとに企業のマーケティング活動をサポートするサービスブランドです。“声”をあげてくれるモニター組織、オレンジページメンバーズの会員数は約18万人。彼らとの深い関係性があるからこそかなう調査方法や、結果を読み解く出版社ならではの編集力など、一般のモニター調査とは異なる独自性を持ちます。その取り組みについて、「次のくらしデザイン部」の高谷朋子、岩井直一、福島耕一、吉岡華子に聞きました。


創刊時から変わらない、“まず生活者の声を聞く”というスタンス

—まずは「次のくらしデザイン部」が生まれた経緯を教えてください。

岩井直一(以下「岩井」):オレンジページ社はもともとスーパーマーケットのダイエーのグループ会社でした。スーパーのチラシに対して「チラシに載っている食材の使い方が知りたい」という声が寄せられ、1985年にレシピをまとめた本をつくったことが、オレンジページ社と雑誌『オレンジページ』の発端です。

高谷朋子(以下「高谷」):オレンジページは、雑誌のなかに切り取り線のついた投書をつけた初めての会社でもあります。また、創刊当初から50名の社外モニターさんを対象にしたモニター制度を取っていました。社員の知り合いでふつうの生活をしている人たちに、月に一度アンケートを郵送してどんな生活を送っているかを聞き、さらに電話で「最近どんなお肉を買っていますか?」などと細かくヒアリングしていたんです。

その後、モニターを社員の知り合いに限定せず、読者のなかから募集し、郵送、電話、FAX、メールとツールを変えながら調査を継続。現在は約18万人が登録している「オレンジページメンバーズ」の会員を対象に、オンラインで日々いろんな調査をしたり、各種イベントや座談会でお会いしたりしています。

―投書や電話から始まり、現在までずっとモニターの声を大切にしてきたんですね。

高谷:はい、そうなんです。まず生活者の声を聞くというスタンスは、『オレンジページ』の創刊時から変わっていません。それが「次のくらしデザイン部」という形になったのは2017年のこと。それまで、読者やモニターの声は自分たちの媒体や企画をつくることに活用してきたのですが、企業のさまざまなマーケティングの支援にも役立つのではないかと考えました。そこで「次のくらしデザイン部」というマーケティング組織を立ち上げ、読者コミュニケーションに加えて企業のマーケティング支援もするスタイルになったわけです。

左から高谷朋子、福島耕一。

―それぞれどのようなことを担当していますか?

岩井:僕は、メンバーズへの調査や商品モニタリングに携わることが多いですね。そのほか、メディアに掲載する記事の制作やイベント企画の下調べとしての調査、企業さんに出稿いただいたタイアップの評価をつくることもやっています。さらに、発売前の商品のテストマーケティングなど、メーカーさんのビジネスを支援するリサーチも行っています。

吉岡華子(以下「吉岡」):私は「コンポストで始まる循環の生活実装デザイン」のプロジェクトを担当しています。コンポストの啓蒙のために、バッグ型コンポストを開発する会社や街づくりの団体と組み、オレンジページの旧オフィスの前にあった港区の公園でコンポスト活動を行ったりしました。

吉岡:調査でいうと、オンラインコミュニティを設ける「MROC」という手法を用いて、特定の商品を使っている人にお題を出し、実践したことをシェアする日記調査にも携わっています。たとえば5、6人の参加者たちが「この商品のここがすごくいいよね」などと気づきをやり取りしながら、画像やコメントを投稿してもらうイメージでしょうか。そういった調査は、活発に参加してくれる人がいるからこそ成り立つもの。いつもメンバーズに助けてもらっている感覚です。

岩井:雑誌に掲載するコンテンツをつくることもありますよね。

福島耕一(以下「福島」):そうですね、『オレンジページ』のなかに「ほぼ1000人にききました」という連載があるのですが、これはメンバーズへの調査結果をベースにしたものです。「冷蔵庫事情」「今年の夏、旅行する?」など、タイムリーなこと、みんなが興味を持っていそうなことをテーマに、生活者の本音を明らかにするためにいろいろな質問を投げかけて集計しています。そのうえで、「いまの生活者って、実はこんなことを考えてるんですよ」ということを誌面に落とし込んでいます。生活者がなにを考えているかは企業の方も知りたいところなので、この連載の内容をベースに毎回リリースをつくって配信し、さらにコーポレートサイトでも公開しています。

左から岩井直一、吉岡華子。

リアルな話を打ち明けてくれるオレンジページメンバーズ

―さまざまな調査結果を見ると、自宅にあるすべての調味料を並べて写真を撮っていただいたりと、メンバーズのみなさんがとても協力的だと感じます。ほかにも、次のくらしデザイン部の調査ならではの特徴があれば教えてください。

高谷:メンバーズのみなさんは“ステキな生活”ではなく、“ありのままの日常”を隠すことなく見せてくださるんです。たとえば、きれいにセットされたテーブルではなく、料理を鍋のまま出した食卓の写真を投稿してくれたり。それは深い関係性を築けているからで、「オレンジページさんなら」と打ち明けるようにお話ししてくださったりするんですよね。コロナ禍前に行っていたお宅訪問調査もそう。ご自宅にお伺いし、普段どんなふうに料理をしているのか、納戸はどんなふうに使っているのかなどを見せていただくというもので、信頼関係がなければできない調査だと自負しています。

一般的な調査だとモニターは都度変わることが多いと思いますが、次のくらしデザイン部は、1年後にも同じ方にお話を聞くことができます。「去年あのチャレンジに参加していただきましたが、最近はどうですか?」と継続してリサーチができるところも独自の魅力かと思います。

それこそ長いお付き合いのあるモニターさんのなかには「パンづくりだったら、きっとあの人がいろんな知恵を持っている」というふうに、バイネームで思い浮かぶ方もいます。ほんとうにたくさんの方が一緒に頑張ってくださる。いわゆる共創マーケティングに関わってくださっていることがいちばんの特徴かなと思います。

―オレンジメンバーズにはどのような方がいらっしゃるのでしょうか? メンバーの傾向や属性についても教えてください。

高谷:つい先日、オレンジページメンバーズの独自性をあらためて浮かび上がらせるための調査をしました。メンバーズと一般モニターに同じ質問をして、その違いを分析するものです。たとえば「体験インプット力」を探る「気になったモノ・ことは試してみる方だ」という質問に対し、「当てはまる」「やや当てはまる」と答えたのはメンバーズが80.3%、一般モニターが42.4%。ほかの項目の結果もあわせて見ると、メンバーズは「生活感度が広く高い」「豊かな暮らしにプロアクティブ」「いいものは人にすすめたい」といった特徴があると言えます。

―数字にするとこんなに差が出るんですね。

高谷:5年前に同じ調査を実施したときよりも差が開く結果となりました。細かな分析はこれからなのですが、もしかすると、一般モニターはコロナ禍で内向きなところが強まったままである一方、メンバーズの方々は、コロナ禍が明けた!というアクティブさが表れてきているのかもしれません。年齢や家族構成など、属性的なところは次のとおりです。

岩井:オレンジページメンバーズは『オレンジページ』本誌の読者だけではなく、「オレンジページnet」や通販サイトのユーザーも含めたオレンジページのファンの方々。いろんな入口から入ってくださるので、さまざまな方がいらっしゃいます。また、持ち家率や世帯年収などを加味すると、“きちんと生活を楽しんでいる人”が多いと言えそうです。特徴としては、「普段の暮らしは質素だが、特定のものには出費は惜しまない」「気になったことは試してみる」「趣味や好きなことに使う時間が重要」といったところが挙げられます。

ただ便利さや時短を追求するのではなく、楽しさや社会的意義を重視したり、価値のあるものにお金をかける人が多いことは、いろいろな企業様に共感してもらえるポイントでもあり、「ただ商品がほしい、安ければいいという方だとうちの商品の魅力を伝えづらいのですが、きちんと生活していて意見をたくさん言ってくれるのであれば調査をお願いしたい」という声もいただきます。

編集者がデータを読み解き、新たな視点を提供する

―これまでに企業と協業した事例を教えてください。

高谷:私たちは出版社であることを活かして、調査結果や商品開発に編集者による独自の読み解きを加えています。たとえば、日鉄興和不動産株式会社と一緒に取り組んだファミリー向けのキッチンの開発では、キッチンメーカーとデベロッパーと次のくらしデザイン部、そしてインテリア専門の編集者とディスカッション重ねてつくりあげていきました。

アンケート調査で現状のキッチンへの不満やほしい設備をヒアリングしたり、自宅の写真を送ってもらい「なんでそれがここに置いてあるんですか?」といったことを聞くデプスインタビューを実施したりしました。そうして得られた結果に対する「みんな料理はしたいけれど実は後片付けがあまり好きじゃない」という読み解きをもとに、メンテナンスのストレスを解消できるキッチンを開発することに。読者アンケートで“面倒な掃除”の筆頭に挙げられた「換気扇」には、ボタンひとつでフィルターとファンをまるごと自動洗浄してくれるレンジフードを採用し、ガスコンロもお湯で拭くだけで汚れがさっと取れるガラストップタイプに。いずれもマンションの標準搭載としてはなかなかないチャレンジだと言われました。

―データをそのままお渡しするのではなく、インサイトを深く読み解いていくことが特徴なんですね。

岩井:ほかにも代表的なのは「大豆粉と米粉のパンケーキミックス」でしょうか。オレンジページメンバーズができる前に取り組んだ事例で、アンケートやモニターとのワークショップなどを通してメーカーさんと一緒に開発しました。今年で発売9年目になります。既存のホットケーキミックスと差別化して、グルテンフリーなど、生活者が本当にほしいと思ったニーズを拾って商品化した結果、ロングセラー商品になりました。

高谷:まだ世間でグルテンフリーの考え方が広まる前だったんですよね。時代を先取りした形になったことは、編集者の勘所かなと思います。

次のくらしを一緒につくるパートナーになりたい

―いま、特に注力していることはありますか?

高谷:2022年4月から始めた「くらしヒアリング発表会」です。私たちの取り組みを企業のみなさんに知っていただくために、隠れたニーズや世の中の小さな兆しが見える調査結果を発表する機会として、オンラインで5回ほど実施しました。

―どういった方が視聴されるのですか?

岩井:テーマによって視聴される方の業種が変わります。『40代女性に「料理好きマインド」の谷?』では、食品メーカーさんや暮らし系のメーカーさんが多く、『コロナ3年目 キッチンから見る、くらしの変化』では住宅系の方やデベロッパーさんが多かったですね。

吉岡:部門でいうと、開発セクションや商品のブランドマネージャー、広報など、トレンドを知りたい方が多い印象です。

福島:7月に今年度初めての発表会を控えていて、テーマは「和食」の予定です。自宅でつくる和食がどう変わってきているか、和食に対する意識がどう変わってきているのかなどを知るために、いろいろ調査をかけたり分析したりしています。

いま、和食の定義が広く曖昧になってきていて、たとえば麻婆豆腐を和食としてつくるような人が増えているんですね。メンバーズに「つくった和食の写真を送ってください」とお願いすると、けっこうな割合で汁物がなかったり、ごはんもおかずもワンプレートに盛っていたりと、メニューそのものだけではなく、スタイルもかなり変わってきていると感じました。

そのあたりが今後どういう方向に向かっていくんだろうとか、変わりつつある生活者の和食意識に対して、企業としてなにができるかとか、そういうことを考えながら準備を進めているところです。

―最後に、今後の展望について教えてください。

高谷:メディアづくりに貢献するインハウスのマーケティングと企業支援の両輪でいこうというのが、今年度以降の展望です。

岩井:これまでは調査結果を雑誌などの自社メディアに落とし込むことが多かったのですが、企業さんにとってもマーケティングの武器にしていただきたいと思っています。そのためには、我々だけの力でなく、メンバーズの協力が必須。たくさんの気づきや意見をいただくために、みなさんが楽しいな、参加したいなと思ってもらえるようなことを、もっと提供していけたらと考えています。

高谷:いろいろな調査をしていてすごく感じるのが、いまは「一緒に考えてほしい」時代だなと。調査会社が結果だけをポンと渡しても、たくさんの調査をやりすぎて、クライアントさんは反対に混乱してしまうんですよね。もちろん、私たちが正解を持っているわけではないですし、生活者も正解を言い当てられるわけじゃない。でも「これってこういうことかな?」「私たちの読者はこう言ってるよ」というようなディスカッションやアイディエーションがすごく求められていると感じます。そこを、私たちが一緒に考えますよと。出版社ならではの編集力を活かして、“次のくらし”を一緒につくっていけるパートナーになれたらと考えています。