2021年度にスタートした、山形県小国町の「白い森おぐにフードツーリズム推進事業」。オレンジページは全体の企画・運営を担当し、コロナ禍でのオンラインツアーや体験型スタジオ「コトラボ」での料理教室、そして実際に小国町を訪ねるツアーなどを通して、およそ3年にわたり小国町の関係人口の創出に取り組んできました。今年度でひと区切りを迎えるこのプロジェクトについて、小国町白い森ブランド戦略担当係長の遠藤 愛さんと、オレンジページの三木 裕、髙山奈緒美、楠本祥子が語ります。


少子高齢化で人口減少。それでも持続可能なまちをつくるには

—まずは小国町との「白い森おぐにフードツーリズム推進事業」について概要を教えてください。

三木 裕(以下「三木」):もともと小国町が推進していた「白い森ブランド構想」の一環として、一緒になにかできないかということでご縁をいただきました。弊社は雑誌の発行だけではなく、料理教室や体験というかたちで料理コンテンツをリアルにユーザーにお届けする取り組みもしています。同じように小国町の食材を使って、プロの料理研究家だけではなく実際に暮らしの中でその食材を使う地元の方もお呼びし、町の魅力を伝えていこうというアイデアが出発点でした。そこから、単なる料理教室ではなく、フードツーリズムとして事業を展開することになりました。

遠藤 愛さん(以下「遠藤さん」):小国町は自然豊かでいい町なのですが、誰もが知っているというほどの知名度はありません。また、一般的には山形といえばサクランボやブドウなどフルーツのイメージがあると思いますが、小国町の特産品は山菜やきのこなど、地味なイメージのものが多いんです。けれど人々の食や暮らしには、自然のなかで培われてきた知恵や技術があり、年間を通して地場のものをおいしくいただくことができます。特産品だけでなくそういった文化も併せて発信し、町の関係人口になってくれる方を増やしたいという狙いがありました。

—白い森ブランド構想はどのような取り組みなのでしょうか。

遠藤さん:小国町は東京都の23区がすっぽり入るほど広い町ですが、その9割くらいが森林で、さらにそのうちのおよそ7割が広葉樹の森です。広葉樹のブナは幹が白いので森はとても明るく、まさに「白い森」という風景が広がっています。そして、冬になるとひと晩で山々が真っ白になるくらい雪が降り積もる。このブナと雪のイメージから、「白い森おぐに」として町をブランディングしています。

まずはロゴマークをつくり、町内の施設やスクールバスなどいろいろなところに掲示しました。町の人には「白い森おぐに」に親しみを持ってもらい、町外の人には小国町を知ってもらう。そして特産品や文化を広め、小国町のイメージを定着させていきたいと思っています。ほかの多くの地方と同様に、小国町も少子高齢化でどんどん人口が減ってきています。ただ定住人口が減ったとしても、外から関わってくれる方を増やして、持続可能なまちづくりを進めていこう、子どもたちが帰りたいと思ったときに、帰ってこられるまちを守っていこうという思いが、このブランド構想に込められています。

左から、髙山奈緒美、遠藤 愛さん、楠本祥子、三木 裕。

—フードツーリズム推進事業の具体的な内容を教えてください。

三木:フードツーリズム推進事業は2021年度から始まり、今年で3年目です。初年度はコロナ禍だったので、オンラインツアーを2回実施しました。すると参加者のみなさんから「実際に小国町に行ってみたい」という声が多くあがり、2年目からリアルツアーを実施することにしました。この事業には関係人口を増やす・関係性を深めるという目的があったので、ただ現地に観光に行くのではなく、料理教室・現地ツアー・交流という3段階の実施計画を立てました。

まずはツアーに先立ち、阿佐ヶ谷のコトラボでの料理教室を実施。そこでは遠藤さんから「白い森おぐに」の由来や町の四季折々の魅力を話していただき、小国町でマタギをされている方に郷土料理やマタギの生活などのお話も伺いました。そうやって一緒に料理をして学んだあとに現地ツアーを実施し、さらにツアーが終わってからもう一度みんなで交流する機会を設けました。今年度は夏と冬、2回のツアーを実施することになり、今は冬のツアーの準備をしているところです。

2022年は9月に現地ツアーを開催。2日間にわたり、料理教室、マタギのお話会、ブナの森の散策、きのこ収穫体験、バーベキューなどを楽しんだ。
2022年、ツアーのあと参加者が再びコトラボに集まり“芋煮交流会”を実施。

—小国町がブランディングを進めるなかで、オレンジページと一緒に取り組むことになった背景を教えてください。

遠藤さん:もともとオレンジページ社は、『オレンジページ』という誰もが知っている雑誌でライフスタイルや食について発信されています。季節ごとの暮らしや健康、よりよい暮らしのスタイルなどにフォーカスしているので、そのようなことに関心の高い読者の方が、小国町の暮らしや食に興味を持ってくださるのではと考えました。またオレンジページ社にはコトラボという場があり、プロの料理研究家さんとのつながりもたくさんあります。一緒に料理をつくる、味わうという体験を提供することで、一見地味に思える食材などでもその魅力を存分に伝えられるのでは、という期待も大きくありました。

伝えたいのは暮らしや文化、そして自然とともに生き生きと暮らす町民たちの魅力

—オンラインツアーや料理教室の企画はどのように練っていったのでしょうか。

楠本祥子(以下「楠本」):プロジェクトが始まった2021年に、まず小国町にロケハンに行きました。そこで遠藤さんが、カゴをつくる作家さんや民宿を営むマタギの方、移住してきた方など、町民の方との接点をたくさんつくってくださったんです。みなさんからは、私たちの知らない小国町の暮らしや食についてじっくりと伺うことができました。

なかでも、冬の暮らしのお話は印象的でした。春から冬支度を始めて備えるくらい、小国町の冬は本当に厳しいのだそうです。季節に寄り添った暮らしの知恵や工夫、そして魅力を地元のみなさんから直接聞くことができました。それが最初のとっかかりとなり、料理教室やツアーのプログラムについて、この町の魅力をどうしたら参加者のみなさんにお伝えできるのかということを、遠藤さんと一緒に考えていきました。

遠藤さん:小国町には自然とともに生き生きと暮らしている方がたくさんいらっしゃいます。オンラインツアーでは、まずその暮らしぶりや空気感をお伝えしたいと思っていました。

—コロナ禍でのスタートでしたが、オンラインツアーではどのような工夫をされたのでしょうか。

楠本:参加者には事前に小国町の食材をお届けし、当日それぞれに料理して食べながら、特産品や観光スポットなどを紹介するという形をとりました。私がロケハンに行って現地で体験したことや空気感を、ぜひ参加者のみなさんにも五感で味わっていただきたいと思い、食材と一緒にその秋の真っ赤に紅葉した葉っぱや木の実を入れたり、マタギの方が手づくりした木工品などもお送りしました。

2021年に実施したオンラインツアーの事前収録の様子。

遠藤さん:2021年度の冬には実際に現地に来ていただくツアーを企画していましたが、コロナの影響で急遽オンラインに切り替え、2回目のオンラインツアーとして開催することになりました。それでも、どうやったらこちらの空気感をリアルにお伝えできるかを考え、事前に動画を収録していただいたり、当日は生中継も交えたりと、現地の人たちの笑顔をお伝えすることができました。

楠本:町の方たちのご協力がとても大きかったですね。生中継した雪のお城のカフェは、当初企画していたツアーで実際に訪れる予定でした。オンラインツアーの準備は本当に時間がなかったのですが、現地の方たちが中継にもうまく対応してくださったということが成功につながったと思います。初年度以降もたくさんの方にご協力いただいていますが、みなさんこちらの期待を遥かに上回るくらい力を発揮してくださいます。また自治体の職員である遠藤さんと町の方との関係性の良さも印象的で、だからこそみなさんが熱意を持って関わってくれるのだと感じています。

—ブランディングやオンラインツアーなど、小国町ではこれまでになかった新しい取り組みとなりましたが、役場や町のみなさんの反応はいかがでしたか?

遠藤さん:この事業を担当するブランド戦略室は、ブランド構想を推進するという、新しいことにチャレンジしていく部署として7年前に発足しました。町の魅力を発信したり、外から人を呼び込む事業を進めるなかでコロナ禍となり、本当に実施して大丈夫なのか、都会から人に来てもらっていいのかという議論はもちろんありました。ただ、そこで立ち止まってしまうか、できることを見つけてチャレンジしていくかで、その先のまちづくりや施策も変わっていくと思ったのです。あの時期に模索し、できることに取り組んできたことが、今の盛り上がりにつながっていると感じています。協力してくださった町民のみなさんも、今年はどんなことをするのかと楽しみにしてくださっています。また新たなことができそうだというワクワク感を共有できる連帯感が生まれたことも、この事業を通して得られたもののひとつだと思います。

2021年12月に実施したオンラインツアーのダイジェスト。
2022年2月に実施したオンラインツアーのダイジェスト。

つながりの深さが生み出す自発的なアクション

—オレンジページには、長い時間をかけて誌面を通してたくさんの読者の方と良好な関係性を築いてきた実績があります。そのノウハウを活かしたフードツーリズム推進事業では、どのような気づきがありましたか?

三木:私は2年目のツアーに同行し、初めて小国町に行きました。ツアーの最後に参加者と町の方とが一緒にごはんを食べながら交流したのですが、そのときの温かな雰囲気がすごく印象的でした。町のみなさんが小国町での生活を本当に楽しんでいることが伝わってくるようなおもてなしをしていただき、小国町での暮らしやつながりを丸ごと共有してもらったような感覚になりました。そこに暮らす人々とリアルに触れ合うことで、食材の豊かさや自然環境の良さといった地域の魅力が何倍にも膨らんで感じられるということが、今回このプロジェクトで私たちが得た一番の知見だと思います。

2022年の現地ツアーの様子。

髙山奈緒美(以下「髙山」):私も2年目からプロジェクトに参加し、まず小国町の方々の生き方や暮らしがとても素敵だなと感じました。ツアーの参加者のみなさんが小国町に惹かれる理由は、やはり人の魅力というところが大きいと思います。また、2年目までは夏のツアーだったので白いブナの森を見学しましたが、そうすると雪の森が見てみたくなるんです。今回はこういう一面を見られたけれど、まだまだ別の魅力があるんじゃないかなと。そうやって少しずつ知っていくことで、ますます知りたくなるというのも、小国町の魅力に引き込まれていく理由のひとつなのかなと思っています。

—小国町とオレンジページが一緒にこの事業に取り組めてよかったポイントを教えてください。

遠藤さん:オレンジページ社とだからこそ実現できたと感じることは、本当にたくさんあります。コトラボで体験を提供できたこともそうですし、食材だけでなく地域の人の魅力や暮らしのストーリーも伝えたいというリクエストに応えていただけたというのも、もともとオレンジページのみなさんが積み重ねてきたこれまでのベースがあったからこそだと思っています。

—今後の展望ややってみたいことを教えてください。

遠藤さん:この3年間は行政の事業計画のなかで予算を確保し進めてきましたが、今後はこの事業をどう継続し発展させていくかを考えなければいけません。すでにオレンジページ社とのプロジェクトを通じて小国町のファンになってくださった方々が、私たちのほかの事業に参加してくださったり、都内でのポップアップに足を運んでくださったり、個人的に小国町の食材やお酒を購入してくださったりしています。また「自治体の職員」と「参加者」ではなく、顔を覚え名前で呼び合う関係性を生み出すこともできました。この先どのようにそのつながりを継続し、小国町のファンでい続けてもらうかということが大事だと思っています。

楠本:遠藤さんが言うように、写真好きな方が小国町の写真集をつくってくださったり、何度も参加してくださっている方からは、今後どうやって自分たちが小国町の魅力を発信していけるかをディスカッションしたいという声をいただいたりもしています。参加者のみなさんに小国町への愛着を持っていただけたことが、今回の取り組みでとても大きなことだったと思います。そういった参加者のみなさんや、これから新しくファンになっていただく方と一緒に、小国町の魅力をどのように発信し盛り上げていけるのかというのを、これからも考えていきたいと思います。