オレンジページのコーポレートアイデンティティ(以下「CI」)の新設は、2020年7月に発足したコーポレートロゴをつくる社内プロジェクトから始まりました。その後、2020年11月に株式会社スマイルズをパートナーに迎え、「みんなのオレペPROJECT」としてリスタート。

雑誌『オレンジページ』の創刊から36年目を経た今、なぜ自社を見直すことが必要だったのでしょうか。ロゴとブランドパーパス、タグラインとのつながりも含め、オレンジページ 代表取締役社長の一木典子と、スマイルズ 取締役CCOの野崎亙さんが語ります。

※会社名および役職などは公開時2021年6月の情報となります。

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“雑誌だけではないオレンジページ”を知ってもらうために

―最初にコーポレートロゴをつくろうと考えたきっかけはなんだったのでしょうか?

一木典子(以下「一木」):私がオレンジページの代表に着任する2019年よりも前、JR東日本に在籍していたときに、20名ほどのオレンジページの社員の方とざっくばらんにおしゃべりする機会がありました。実はそのとき、社員のみなさまがオレンジページのブランドをすごく誇りに思っていることが印象的だった一方で、それを創りあげた源泉について踏み込んだ発言がなかったことが気になっていたんです。

社員の方にとっては当たり前すぎて言語化されず、魅力的な発信ができていないんじゃないかと思いました。それからもうひとつ。外から見ているとやっぱり雑誌のイメージが強く、逆に言うと雑誌以外の事業がわかりにくいと感じていました。
そうした背景があり、着任した時点で、今後会社としてのDNAやアイデンティティの表し方を再構築するべきだろうと考えていました。

それで着任1年目、まずオレンジページのブランドの現状を探ろうということで、既存ユーザーではなく一般のマーケットに調査をかけたんです。その結果、私が思っていたよりもずっとオレンジページへの信頼感と好感度が絶対的にも相対的にも高いことがわかり、驚きと喜び、そしてそれを培ってきたこれまでの営みへの敬意を感じました。

ただ同時に、雑誌以外の事業がほとんど知られていないことも明らかになって。やはり企業の存在意義(PURPOSE)と、それを映した各事業の位置づけについて再定義して社内で共有し、外部にもしっかり発信していこうということになりました。

最初に話し合ったのは「雑誌名と会社名が同じで、さらにロゴも同じであることが、雑誌一色のイメージを強くしているよね」ということです。社名を変える案も出たのですが、やっぱり愛着があるし知名度も高いので、コーポレートロゴだけを新たにつくることに。

その後、私の思いつきで、ロゴを公募してはどうかと提案しました。ロゴができあがるまでのプロセスを、公募という形で社会とコミュニケーションをとりながら進めることで、オレンジページへの社外からの期待を知るとともに、“オレンジページは雑誌だけじゃない”ことを世の中に知ってもらおうという目的です。

株式会社オレンジページ 代表取締役社長(当時)の一木典子。

―その後、公募ではなく、株式会社スマイルズとパートナーを組んで「みんなのオレペPROJECT」を進めていくことになりました。

一木:実はプロジェクトメンバーには、最初に「オレンジページの業容が雑誌だけではないことが表現され、そのことをたくさんの方に知ってもらうという目的が達成されるのであれば、公募でなくてもかまわない」、さらに「代案があれば、新しくコーポレートロゴをつくることにもこだわらない」と伝えていました。

そのうえでメンバーに話し合ってもらった結果、「私たちはこうありたいという想いをしっかり伝え、それを理解してくださった方に提案してもらったほうが絶対にいいはず。だから、公募ではない形にしたい」と。私もその意見に賛成して、パートナーを探すことになりました。その後メンバーがいろんな会社さんに足を運び、ご相談したんです。

パートナーに選んだ決め手は、生活者、そして社員へのまなざし

―スマイルズを選んだ決め手はなんだったのでしょうか?

一木:一番は、メンバーがスマイルズさんに惚れ込んだことです。メンバーいわく、圧倒的に聴く力をお持ちで、そのうえで私たちの思いを言語化したり、リフレーム(=言い換え)したりしてくれる。その対話の心地よさと信頼感があるということでした。

それに、生活者の率直な感覚を外さず“ワクワク”を暮らしに落とし込むなど、仕事をするうえで大事にしている部分がお互いに似ているのではないかと思います。メンバーたちのなかに共振するものがあったんだろうなと感じました。

―野崎さんは、お互いの親和性についてどのように感じましたか?

野崎亙さん(以下「野崎さん」):一木さんがおっしゃられたような、オレンジページさんの“酸いも甘いも知っている”ようなところにすごく共感するんですよね。なにかを守りながら変わるって、すごく大変なことです。

スマイルズは「Soup Stock Tokyo」の事業で知られていますが、僕がとりまとめているクリエイティブチームは同時にほかのこともやっていて、オレンジページさんと同じように“右か左か”ではなく“右も左も”両立することを目指している。その点の共感度もすごく高いと感じました。

僕たちがクライアントさんとプロジェクトを始めるときに一番重要視するのが、クライアントさんがご自身たちのことを好きかどうかということです。ロゴプロジェクトのメンバーとは、相談にお越しいただいたときに初めてお会いしたのですが、お話を聞くなかでお一人おひとりがオレンジページを好きなことが伝わってきました。

それから、僕たちクリエイティブチームのwebサイトを隅から隅まで読んでいただいていたようで、そのとき「言葉がすごいです」みたいなお話を伺ったんです。

僕らは言葉のプロではないにせよ、自分たちの素の言葉を、いかに質感を伴って伝えられるかを常に大切にしていて。そこをご理解いただけていたことも、「一緒にいい仕事ができそうだな」と予感させました。

株式会社スマイルズ 取締役CCOの野崎亙さん。

一木:スマイルズさんの言葉のセレクトは決め手のひとつでしたね。というのも私は、世の中には新しい生活習慣やライフスタイルといいながらも、ビジネス文脈や政策的意図に偏って語られるものが多いと常々感じているんです。

最終的なお客さまは生活者なのに、そうした語り口調にしてしまうことで生活者感覚と距離ができ、きちんと生活に定着しない……、それではもったいないと思っているんですね。スマイルズさんは、生活者や社員へのまなざしが圧倒的に人間らしかった。

それはオレンジページの姿勢と重なるところでもあり、私自身が今、この時代に仕事をしていくにあたってすごく大事にしていることなので、スマイルズさんとご一緒できれば間違いないと思ったんです。

―「みんなのオレペPROJECT」では、メンバーだけでなく全社員を巻き込むためのワークショップ「全員“へん”集長会議」も行われました。一人ひとりに自分ごととして捉えてもらうために言葉遣いで意識したことはありますか?

野崎さん:僕はむやみに横文字を使うようなことが、とにかく嫌いなんです。特に、オレンジページさんも我々もBtoCなので、伝わらない言葉を使う必要は1ミリもありませんよね。だから僕たちは、意味がただわかるだけじゃなく、共感するかどうかをすごく意識して言葉選びをしているつもりです。

たとえばエディトリアルの世界では「編集力」という言葉が使われがちですが、我々も含めてきちんとした説明ができない人が多い。そんなふうに、業界通念で使われるような言葉ってけっこう危ないんです。だから言葉をなるべくわかりやすくひもとくことをすごく意識しています。

社長の意見をひっくり返してほしかった

―スマイルズと組んで本格的にスタートしたプロジェクトは、一木さんのトップダウンではなくメンバー主体で進められました。この取り組みを通してどのような組織文化をつくっていきたいと考えたのでしょうか。

一木:実は、私は今回のプロジェクトを、社長の言ったことをひっくり返した好事例にしてほしかったんです。

ロゴを公募することを提案したときも、社員の数名が「公募じゃないほうがいいのではないか」と感じていることに気づいていました。だから、それをしっかり考え抜いたうえで私に意見してくれたらいいなと、どこかで願っていました。

社長だって、自分の意見が一番だなんて思っていなくて……、みんなの率直な意見も、本気の提案も聞きたいんです。それが見事に起こってうれしかったですね。

さらに、企業ブランディングにおいては、外部に発信する前のインナーコミュニケーションが鍵になります。実際に、プロジェクトメンバーでさえまったくまとまらないとか、昨年策定したブランドパーパスにまったく腹落ちしていないといったことがあらわになったことで、メンバー自身がインナーコミュニケーションの必要性に気づき、今回の丁寧なプロセスにたどりついたと聞いています。

スマイルズさんのご提案のもとで企業のDNAに立ち返ったり、社員一人ひとりの想いを汲み取るプロセスを経て、すべての表現を磨いていけたことは、新しいロゴができた以上にこのプロジェクトの収穫だったと思っています。

「みんなのオレペPROJECT」でわたしが会議に呼ばれたのは3回だけで、実はほとんど介入していないんです。メンバーたちが、自分たちなりに納得できる答えが出るまで考え抜いてから、私のところに報告にきてくれたことの結果だと思います。

プロジェクトでは定期的なメンバー会議のほか、社内スタッフへのインタビューやワークショップを通して進められた。

―プロジェクトを通して、新しい組織文化の芽生えを一木さん自身も感じていたんですね。野崎さんは、たとえば「全員“へん”集長会議」に立ち会われたときにはどのような感触を得ましたか?

野崎さん:会社というものは、どうしても個々人が持っている側面にまで光が当たらないんですよね。オレンジページさんは一人ひとりの趣味性も高いし、主体的に動いている方が多い。それでも見えていない側面が必ずあって。

「全員“へん”集長会議」には、立場や価値観、そして会社のなかの自分という前提を取り払った状態で参加してもらいました。実際のワークショップで、まさに個々人の知られざる一面が現れました。そのなかでほかの会社と違うなと感じたのは、やはりすごく趣味人が多いということです。

偏愛が強い人が多く、単純にいうと一人ひとりすごく魅力的だったので、このリソースを最大限に活かせたらなんでもできるだろうと、ワークショップの最中から手応えを感じていましたね。

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