オレンジページのコーポレートアイデンティティ(CI)の新設は、2020年7月に発足したコーポレートロゴをつくる社内プロジェクトから始まりました。その後、2020年11月に株式会社スマイルズをパートナーに迎え、「みんなのオレペPROJECT」としてリスタート。

雑誌『オレンジページ』の創刊から36年目を経た今、なぜ自社を見直すことが必要だったのでしょうか。ロゴとブランドパーパス、タグラインとのつながりも含め、オレンジページ 代表取締役社長の一木典子と、スマイルズ 取締役CCOの野崎亙さんが語ります。

※会社名および役職などは公開時2021年6月の情報となります。

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リアリティを持って届けることが、生活実装につながる

―CIのデザインと、2020年8月に策定したブランドパーパスとの結びつき、そして今回CIの新設と同じタイミングで掲げたタグライン「生活実装する会社」と、スローガン「ページをほどこう.」へのつながりについて教えてください。

一木典子(以下「一木」):ブランドパーパスは、「パーパス」「ミッション」「人事ポリシー」から成っています。

パーパスは「『食』を起点に暮らしをつくり、生活者、コミュニティ、地球の、よりウェルビーイングな未来をつくる」。ミッションは「『食』の意味と物語を発見し、編集し、贈ることで、①生活者となにか新しいコトをつなぐ、②生活者やコミュニティのウェルビーイングな、つまり幸せな情景を協働・共創する生活文化を育む」としています。

ミッションでは“生活文化”と柔らかい表現にしているのですが、それをビジネスパーソン向けの提供価値に少しリフレーミングしたのが「生活実装する会社」というタグラインです。全方位に向けたミッションのコア部分を、スマイルズさんのお力添えのもとでtoB向けのタグラインに変換した形ですね。

『オレンジページ』は、流行や最先端のものを紹介するメディアではありません。生活に取り入れられたらハッピーになるモノ・コトを、リアリティを持って紹介する。だから、しっかりと生活に取り入れてもらえ、それが定着して生活文化になっていく。そこの部分のコミュニケーションを最も得意としています。

「生活実装」という言葉には、オレンジページのユニークネスと、我々が今後届けていきたい価値が的確に表現されていると思います。

―オレンジページがこれまでやってきたことがしっかり内包され、なおかつこれからの姿を想像できる言葉ですね。

一木:まさにそうですね。人事ポリシーは「生活者であれ、創造者であれ」としていて、「生活者であれ」というのは、私が就任1年目のブランディングプロジェクトのときにこだわって使っていた言葉なんです。そうしたら、メンバーのひとりから「そういえば初代の社長もよく言っていました」と聞きまして。たぶん、オレンジページの原点はそこだったんですよね。

約35年の歴史のなかで、最近でこそ言葉にすることは少なくなっていたかもしれないけれど、初代の教えを受けた社員は生活者の実感を当たり前に活かしている。それをしっかり承継していくためにもあらためて言語化していくことが必要だと感じ、人事ポリシーとして明示することにしました。

野崎亙さん(以下「野崎さん」):「生活者視点」はよく聞きますが、「生活者であれ」という表現はなかなかないですよね。スマイルズが大切にしている考え方に「N=1」というものがあり、これはものごとを自分ごととして捉え、自分のほしいもの、自分がしたいことを大事にしようという意味合いです。

企業さんと話していると、わりとすぐ「生活者視点で」とおっしゃるんですが、そうじゃなくて、あなたがその当人でしょっていう。だから「生活者であれ」と掲げるオレンジページさんの考え方にはすごく共感します。

みなさんへのヒアリングのなかで聞いた「掲載するレシピが、ちゃんと誰でもつくれるものになっているかどうか必ず試しています」という話も印象的です。つまり、自分たち自身が生活者としてN=1で体験することで自信を得ているんですよね。そういう姿勢を僕も見習わないといけないなと感じた出来事でした。

株式会社オレンジページ 代表取締役社長(当時)の一木典子(左)と、株式会社スマイルズ 取締役CCOの野崎亙さん(右)。

ほどいて、ばらまき、見えてくるもの

―スローガンの「ページをほどこう.」には、どのような思いが込められているのでしょうか。

野崎さん:これはオレンジページさんに限らない話なのですが、歴史ある雑誌のように強いメディアや商品を持っていると、その枠から出て新しいことにチャレンジするのが難しいんです。結局踏み出せなかったり、やってみたもののすぐにやめてしまうケースが多い。

でも「みんなのオレペPROJECT」では、そうしたくありませんでした。雑誌に詰まっているコンテンツを切り出してみるように、「全員“へん”集長会議」で見えてきた社員一人ひとりの偏愛をバラバラにしてみたら、別のものが生まれると思ったんですよね。

雑誌の力、あるいはオレンジページさんの力は、実はすでに雑誌のなかに綴じ込まれている。でもそのままでは既存の枠組みのなかのことしかできないから、自由度高く再構築するためにも、一度分解してみようと。スローガンである「ページをほどこう.」は、そのための最初のアクションを表現したものです。

CIのデザインも、これまで使ってきたロゴを分解してちりばめる“オレンジ爆弾”にしたいと思ったのは、オレンジページさんの価値を街や世の中にプロットし、今まで成しえなかったことがポツポツと生まれてくるようなイメージを抱いたからなんです。ですからスローガンやCIが意味するのは、まずは一度ほどいてみて、それをみんなでばらまき、もう1回くっつけ直そうということですね。

―スローガンを具現化するような取り組みはすでに始めているのでしょうか?

一木:「ページをほどこう.」というフレーズは、多義的に受け取れる点もいいところです。ひとつ目の解釈は、野崎さんが言った『オレンジページ』という雑誌をほどく。つまり、雑誌のなかにあるスキル・コンテンツ・ネットワークを雑誌だけじゃないところに活かしていくという意味でいうと、クライアント企業さまのカタログ製作、雑誌コンテンツのWEBや体験型スタジオ「コトラボ」での展開は、これまでにもやってきました。

それから、誌面で紹介したコンポストの事例も。コンポストってみんな興味はあるけれど、匂いや虫などの心理的障壁もあったんです。そこで、都市型に開発されたコンポストをセレクトして紹介するだけでなく、対話型のオンラインセミナーを開催したり、社内で試してその様子を活動記として発信したり、試してみたくなった方に向けて弊社通販でも購入できるようにしたり……と、まさにページだけに閉じこもらず多面的な形に展開することで、楽しく自然体で生活に取り入れてもらえるようにしました。

オレンジページのオフォスでコンポストを試し、会員向けサイト「オレンジページサロンWEB」で発信。

一木:「ページをほどこう.」のもうひとつの解釈は、スローガンに付随するテキストの「綴じない、閉じない」という一節に表れていて、ここには「もっとオープンにいろんな方と共創していこう」という意味も込めています。

たとえば新大久保のフードラボ「Kimchi, Durian, Cardamom,,,」で、オレンジページはシェアダイニングやファクトリーキッチンなどの運営を行っていますが、地方から生産者やシェフが来るときにはグループ内外のホテルと提携して「シェフ・イン・レジデンス」という滞在場所を提供したり、ここで開発された商品の販路としてエキナカのマルシェや店舗と提携したりと、いろんな付加価値をパッケージングしてお客さまに提供しようとしているんですね。

そんなふうに、自社コンテンツを核にして社外と協働・共創しながらいろんなものを組み合わせて創る多次元の「コンテンツ共創メディア」として、お客さまが一番したいことを実現していけたらと考えています。

「生活者の自分」と「ビジネスパーソンの自分」の間を埋める

―今後、企業や生活者とのコラボレーションをますます加速させていくこととなりますが、価値を共創するパートナーとしてオレンジページはどういう部分で力を発揮できると考えますか?

一木:まず、今、オレンジページの生活実装力が求められる時代的背景がふたつあると思っています。ひとつは、成熟していく今の社会では経済成長に限界があるといわれていることに加えて、所有意識や購買力の高い世代が後期高齢者になっていくことで、“つくれば売れる時代”がいよいよ本当に終わろうとしていること。

モノをつくる前にインサイトを取ることが求められるので、商品・サービスの開発プロセスのなかでお客さまに向き合うタイミングが早くなっています。

もうひとつは、時代の大転換期にあって、サステナブルやエシカルの文脈での新商品や、社会課題解決型の商品・サービスがたくさん生まれていることです。社会起業家の方いわく、これらは世の中に一定割合はいる“意識の高い人”まではリーチするけれど、同じコミュニケーション手法のままでは、そこから先に広げるのがものすごく難しいと。一定層をつかむだけでは生活実装には至らず、志の高い社会企業がサステナブルにならないそうなんです。その壁を突破するために、生活実装型のコミュニケーションデザインが必要になります。

お客さまに向き合うマーケティングと、生活実装型のコミュニケーションデザイン。どちらもオレンジページが昔からやっていたことですが、今後はよりニーズが高まると思います。そのときに私たちは、生活者の心や感情を無視することなく、こうしていけば伝わる、こうしていけば楽しく生活に取り入れてもらえるようになると提案していけるはず。

本当にいい商品・サービスを生活実装したり、結果として社会課題解決や社会実装につながるようなお手伝いができる存在でありたいと考えています。

―外からの目線として、野崎さんが期待されることはありますか?

野崎さん:SDGsやジェンダーなども含めてさまざまな社会課題がありますが、それらの課題と生活との距離って、ずっと埋まらないまま今に至っているんですよね。社会学者の方なんかもよくおっしゃっていますが、この数十年でなにも変わっていない。

要は、結局なにひとつ課題は解決できてないよということなんです。そんな状況を変えるためには、システム論的な話よりも、血の通った生活者視点が圧倒的に重要で。先ほど一木さんがおっしゃったように、本来はその視点を多くの人が持っているのに、ビジネスの場になると途端に“生活者である自分”を忘れてしまうんですよね。

だから「いや、あなたはそれ買いませんよね?」と思ってしまうような商品企画をしてしまう。ただ、いろんなビジネスパーソンと話すと、生活者の自分とビジネスパーソンの自分の間を埋めるのってすごく難しいらしいんです。

そこを結節してくれるのがオレンジページなんだろうと思います。同じ商品だったとしても、生活者としての眼差しを持ちながら、オレンジページさんらしく光を当てることで、生活に取り込み得る、自分ごとになり得るきっかけを与えてくれる。

特にSDGs関連では、これまでの積み上げがあるケースが非常に少ないので、そういう企業にとってもオレンジページさんは可能性を広げてくれる存在になるんじゃないかなと思います。

一木:これまでに行った企業との協働には、たとえば単身向け分譲マンションのキッチンの開発をお手伝いした事例があります。私たちは稼働率の低い魚焼きグリルをなくし、その分調理スペースを広げる提案をしました。

チャレンジングだとは思いますが、そうすることで毎日のキッチンでの時間がいかに豊かになるかを生活者の声から説明して。実際にそのキッチンが採用されたタイプはすごく好評で、そのあとに建てられたマンションにも採用されました。それから、冷蔵庫のPRのお手伝いをしたことも。

最初、その企業さんは高級食材をパーシャルに保存するコミュニケーションをされていたのですが、「私たちがしょっちゅう使うのは高級肉ではなくひき肉。パーシャルから出してサクっと切れたら料理がはかどります」とお伝えして。コミュニケーションはひき肉でやるほうが生活者に刺さるというご提案を採用していただき、実際に数字の面でもいい結果を得ることができました。

生活実装をするなかでオレンジページが意識しているのは新しいなにか=“something new”と生活者をつなぐときに、徹底的に敷居を下げることです。「私でもできるかも」と思ってもらえるように伝えて、実際にやってもらう。さらに「作ってみたらおいしかった」「やってみたらとても快適だった」「家族の笑顔が増えちゃった」と、ポジティブな体験にするところまで深く意識して編集をしているんですね。

「敷居が低い」「やってみたくなる」「やってみたらポジティブ体験になる」、この三段論法こそ、私たちならではの生活実装の編集力として、今後雑誌のなかだけでなく企業とのコラボレーションでも活かしていきたいと考えています。

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